第8話 高次世界の扉は電磁シールドを突破できるのか?

 サミーラがこのプリメシアで自宅としているのは、ミクローシュ大学の学生寮である。だが、彼女自身は正規の学生ではなく、ミクローシュの特別な計らいをもって学生寮を間借りしている立場であった。


 興味本位で大学の書庫に立ち寄っては古代エルフ族の古文書をあさり、ときには閉じこもってまで古文書の研究に没頭する部外者に、正規の学生たちは首をかしげ、なかには反感を剥き出しにする者もいた。


 しかしながら生来ワガママな性格のこのエルフに他人の反感など端から眼中にあろうはずもなく、それにイリシアの王女としてかなりハイレベルな魔法教育を受けていたから大抵の学生は実力面でサミーラの敵ではなかった。


「偉大なる精霊よ、我に力を与えよ…」


 呪文を詠唱するサミーラは超越の術にすべてを賭けていた。名だたる高等魔導師のミクローシュですらいまだ成功していないこの術を、彼女は自分なりの解釈と結論をもっていままさに発動しようとしていた。


 失敗の代償は自らの命だ。


「…高次世界の扉を開き、我を誘え」


 床一面には複雑な魔法陣が描かれており、その陣に沿った等間隔5箇所にマトス製アイテムが配置されていた。魔法陣の中心にはサミーラが位置し、全身全霊を傾け呪文を詠唱している。


「火は水と融合し、土は風と融合し、光は闇と融合し、正と反の交わりが新たなる存在と新たなる法則を生みだし、その偉大なる力が高次世界への道標とならんことを」


 窓が独りでにバタンと開かれると不自然なまでに勢いのある風が部屋に注ぎ込まれ、燭台の蝋燭の火は消え、真っ暗闇になった部屋のなかを机に置かれていた紙類が飛び交った。


「…神の御名において命じる。高次世界の扉を開放せよ。そして我を誘え」


 魔法陣がまばゆい光を放ちサミーラの体が精霊の力に包まれたとき、彼女はバサバサ~っという羽音とともに開かれた窓から子竜が飛び込んできたのを目の当たりにした。


『リース!』


 キュ~キュ~という鳴き声をあげながら胸元に飛び込んで来た子竜を抱きとめるのと同時に、魔法陣の光にサミーラの意識が吸い込まれた。

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