「その護符が護符であると貴様が気づいていないのであれば肌身離さず持っていたわけではあるまい。護符そのものに何かしらを撃退すると言う力はないとみてよいだろうな。なにより道祖土さいどは見るモノという存在であるゆえにそのような内容の護符を作れるとは思えぬ。ただ辻堂つじどう道祖土さいどは切っても切り離せぬ関係がある、その関係を上手く使った札であろう。我とてそれを作った本人ではないからな、護符について知りたければ本人に聞けばよかろう。それと貴様の力、どうしても手放したいのであれば香御堂こうみどうの主人に聞け、奴ならなんとかしてくれよう。ただし、生まれ持った力というのはいわば神仏、自然の其れ等から与えられた特別なもの。それを手放すからにはそれ相応の代償があると言うことを肝に銘じておけ」

 今まで以上に口の端を引き上げて神神しさとは真逆の禍々しさを放つ笑みを見せてゆっくりと大神おおかみは掛け軸へと戻っていく。

「あっ! まだ聞きたいことが!」

 掛け軸に吸い込まれるように消えてなくなろうとする大神おおかみに向かって辻堂つじどうが言えば大神おおかみは、

「もうすぐ香が切れるでな、現世うつつよに我のようなものが居てはあまり良いことにならん。どうしてもというならば香御堂こうみどうに来る廉然漣れんぜんれんという妙な坊主ぼうずに聞くが良かろう。俗世ぞくせに浸り、俗世ぞくせで姿形を作っておって最もこの身近ですぐに話が出来る者となれば奴しかおらんだろうからな」

 と言い残し、部屋は辻堂つじどうが入ってきた時と同じような静けさだけの空間となった。

 暫くの間呆然と座り込んでいたが、これで用は済んだのだと頭のなかでは理解していて、部屋の鍵を開けてロビーへと歩き始める。

 すると、妙な緊張感が解けたせいだろうか、突然の尿意に襲われ慌ててトイレに駆け込んだ。

 そこには見目麗しい何処から見ても女にしか見えない坊主頭の人物が。

 慌てて入り口を確認したが確かにそこは男子用のトイレ。

 頭のなかに疑問符が浮かび上がりながらも、尿意に耐えられず坊主頭の人物の隣で用を足し始めた。

 ホッとして何気なく隣を見れば、見た目はどう見ても女性の姿に、似つかわしくない男性を象徴する物が見えて辻堂つじどうは小便器の前で固まってしまう。

「あら、こちらに興味があるの? 相手をしてあげましょうか?」

 ほほほと上品に笑うその美人な男性が廉然漣れんぜんれんであり、先ほどの大神が言っていた妙な坊主であると判明したのは、用を足す辻堂つじどうの姿をじっと、にやつきながら眺めてくる廉然漣れんぜんれん本人からの自己紹介であった。

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