「てれび番組などというものに出てくるまがい物と一緒にするな。だが貴様の認識の基本は間違ってはいない、口寄せという術をもって己に必要な霊的なものを、己自身の体に乗り移らせる行為を執行する者がイタコ。本物のイタコというものはそれは厳しい修行を経てそれに耐え抜いた選ばれた者だ。貴様は修行などせずとも生まれながらにその力を持っていて、さらに術を使わずとも己の中にある力だけで死者や霊魂ではなく神に近い存在を引き寄せる。ただ、自覚が無ければそれを利用することも行使することも、さらには自らの身をそれらから守る事もできない。今の貴様の姿がそれだ。己の中に留めてしまい、連中によって生命力を奪われ自身で自身を苦しめることになっている。残念ながら貴様はその辺に浮遊している雑魚な霊的存在を留めている訳では無い、故に現世の少々力を持っただけという連中の除霊などというものではこの存在は払えぬ。今現在のこの世界で貴様のような存在をどうにかできるのは二つの力だけ。貴様をここへ導いた道祖土さいどはその二つの内、宿香御堂やどこうみどうの方が良いと判断したのだろうよ。ちなみに道祖土さいどの力は存在を払う者ではなく、存在を確認する者、故に奴が貴様をどうにかすることは難しいのだ。分かったか、貴様の友は別に我に喰わせようと企んだわけではない、どちらかと言えば貴様を救おうとしたのだよ」

 話している間にも辻堂つじどうの体からは複数の色魂が抜けては周りに吸収され、何時しか辺りは玉虫色に輝き始める。辻堂つじどうはなんだか体が軽く、そして色とりどりに輝く周りとは対照的に自分の中が真っ白になったような気がしていた。

「ふむ、久方ぶりの食事は中々様々な集まりで楽しませてもらえた。礼を言うぞ」

 大神おおかみの言葉とともに辻堂つじどうの周りは眩しく輝きはじめ、あまりの眩しさに瞳を閉じれば、体が浮かび上がるような感覚が訪れる。

 掛け軸から抜け出してきたときよりも白く、銀色に近い輝きを放つ大神おおかみの腹のあたりから光の球が現れ、それはゆっくりと空中に弧を描いて座椅子の場所で弾けた。

 放り出されるように座椅子に落下した辻堂つじどうは尻の痛さに思わず声を漏らして顔をしかめ、少し瞳を開いて周りを見る。

「戻った」

「当然であろう、何度となく言っておるが我は貴様をにするつもりはない」

 まだいうのかと半分呆れた様に鼻息を一つ吹き出して、鼻先を天井に向けた大神おおかみに、辻堂つじどうはそんなつもりではないんだけどと言い訳をしながらも謝罪の言葉を口にし更に質問をした。

「俺はこの力を手放すことはできないのか? それに今までこんなことはなかったのにどうして今回こんな酷いことになったんだろうか」

「なんだ、貴様は全く気付いておらんかったのか? 効力はほとんどなくなっているが貴様の体には護符の気配がこびりついておる。しかもかなりの年月のな。この気配は道祖土さいどだろう。貴様の所にはおそらく道祖土さいどから毎年護符が送られておったはずだ。ただ、どんなに強力な護符も貴様が呼び寄せる連中に相当の力で対応するには一年が限度だろう、ゆえに毎年送られておったはずなのだが、どうやら今年に限ってその護符がおくられなかったようだな。そして今年の護符を受け取っていないがゆえに昨年の護符の効力は消え、貴様は先ほどのような状況に陥ったのだろう」

「護符? そんなもの……」

 そう言い掛けて辻堂つじどうはまてよと考え込んだ。道祖土さいどからと言えば思い当たるのは年賀状しかない。

 お互いそれだけでしか繋がりが無かったと言っても良いし、考えてみれば今年は年賀状を受け取っていない。

「もしかして、あれが護符? 普通の年賀状に思えたけど」

「護符という物に決まりはない。どんなにその形を装っていてもそこに力が無ければ護符とは言えぬ。それに所詮貴様は素人であろう、それが護符かどうかなど見分けがつくとも思えん」

 鼻で笑って言う大神おおかいに偉そうにと思った辻堂つじどうだったが、大神おおかみはそんな辻堂つじどうの感情の変化を読み取りながらも気にせず続けた。

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