お狐様

 そうしてそのまま主導権を廉然漣れんぜんれんに握られて、流されるままに道祖土さいどの所までやってきたのだ。

 辻堂つじどうは改めて道祖土さいどを見て頭を下げる。

「そう言えば、大神おおかみから聞いたよ。ずっと俺が今までこんなにならずに済んでいたのは道祖土さいどの護符のおかげだったって。ありがとう」

 辻堂つじどうが礼を言うと道祖土さいどは首を横に振って、少し恥ずかしげに唇の端を持ち上げた。

辻堂つじどうを守ったのは辻堂つじどう自身だよ。僕はあくまで見るモノで取り除くことはできないんだ。でも見るモノであるがゆえにその人の力を導き出すことはできる。自分の年賀状は辻堂つじどうが受取り手に取ることで、本来持っている力の一部の方向を変え、拡散させることで辻堂つじどう本人の居場所を見えなくして、連中を寄ってこないようにするものだったんだ。だから僕の力というわけじゃないから別にお礼を言われるような事じゃないよ。それに、今年は届けられなかったしね」

「毎年ちゃんと受け取っていたんだけど今年は実家に帰省しなかったから受け取ってないんだ。住み込みだからあまり多くの人に住所は教えてないし、両親は送るって言ったんだけどそれもどうしてか断ってしまったから」

「仕方ないよ。護符の効力が薄れる去年末に辻堂つじどうが厄介なのに取り憑かれちゃって、そいつがやたらと邪魔したからね。届くわけがないんだ」

「厄介なのって、さっき大神おおかみが喰って行った奴等か?」

あきらが言っているのは奴等というよりもその根本の要因よ。大神殿おおかみどのに会った時の久義ひさよしは、それはもう素晴らしいほどに無数のいろんなものが入り混じった状態だったけど、その無数の連中が久義ひさよしに誘われるようになった原因、あきらの護符効力が薄れる年末に久義ひさよしについた疫病神やくびょうがみ、それが根っこよ。疫病神やくびょうがみとか悪神あくしんって言っても神様は神様で、悪いことが起こりませんように起こしませんようにと人々は良く祀ったものよ。でも、久義ひさよしいた疫病神やくびょうがみはいつかしか祀られなくなったことによって彷徨さまよっていた。そこに久義ひさよしが現れてこれ幸いと取り憑いちゃったんでしょ。そんな神様が取り憑いちゃったものだから、われもわれもと色々寄ってきてあの状態になったの。ま、今は全部大神殿おおかみどのが食べちゃったから何もない状態だけど、そのままだとまた厄介なのが来るわよ。なんせ久義ひさよし憑代よりしろの中でも珍しい憑代よりしろ体質なんですもの」

 辻堂つじどう道祖土さいどの話にお茶をすすりながら割って入った廉然漣れんぜんれんがそう言えば、辻堂つじどうは少し困ったように眉間に皺を寄せて道祖土さいどを見ながら聞いた。

「その体質の話、どうにかならないのか? 大神おおかみに聞いたら香御堂こうみどうの主人に聞いてみろって言われたんだけど、なんだか結局聞けず仕舞いで」

辻堂つじどうの言う『どうにか』っていうのは無くしたいって事かい」

「あぁ、だってなんだか聞いていたら面倒じゃないか。こんな力がなくて済むなら無い方がいいだろ?」

「まぁ、普通に考えればそうかもしれないね。でも自分には無理だよ。さっきも言ったけど自分はそんな力は持ち合わせてないからね。根源を断つという意味でどうにかできるのは大神様おおかみさまの言う通り香御堂こうみどうさかきさんくらいだろうけど、あまりお勧めしないよ。それよりも、廉然漣れんぜんれん様のいう提案の方に乗るのが得策だと思うけど」

 にこやかに言う道祖土さいどに、今から話そうと思っていた内容をそのまま言われてしまい辻堂つじどうはどうしてと言いそうになるが、すぐに横から廉然漣れんぜんれんが「相変わらずの地獄耳」と笑って言ったのを見てそうかと納得した。

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