「常にどこでもかしこでも覗いているわけじゃないよ。廉然漣れんぜんれん様は石ころなんて言ったけど、民間信仰で近しい存在とはいえ神様は神様だからね」

「道祖『神』っていうくらいだもんな」

「うん。だから只の人間の自分が繋がるのは結構色んなものを消耗する。チャンネルを大きく開こうとすれば、消耗が激しいし、対価が大きくなる場合もあるんだ」

「消耗って体力とかか? 対価って?」

「まぁ、その辺は色々だよ。道祖神ていうのは多種多様でね、求めてくるものも一つじゃないから。つまり何が言いたいかって言うと、大きな力を使おうとすれば、リスクが大きくなるんだよ。だから全てがわかるわけじゃない。今回は辻堂つじどうが気になったから、辻堂つじどうの周りだけチャンネルを開いていたんだよ。百目鬼どめきの事もあるしね」

 百目鬼どめきという名前が道祖土さいどの口から出た瞬間、廉然漣れんぜんれんは鋭い目つきになって道祖土さいどに聞く。

「ちょっと、それ聞いてないわよ。どうしてあの連中の名前が出てくるわけ?」

「聞いてないんですか? 辻堂つじどう廉然漣れんぜんれん様に経緯とか言ってないの?」

「あ~、そういうのは言ってないな。道祖土さいどの紹介で来たことは話したけど」

「はぁ、なるほど。今回ですね、辻堂つじどうの能力を見つけて狩って行こうとしたのは百目鬼どめきなんですよ。色々不手際が重なって、そういう事になってしまったんですけど、まぁ、当然自分が黙ってそれを許すわけもないですからね。辻堂つじどうには自分の所へ来るように念を送って、百目鬼どめきの約束より早く自分の所に来てもらいました」

「それはまた、なんとも。それにしても、全く懲りないわね、百目鬼どめきは」

「あ、いえ、そこは訂正しておきたいんですけど、今回辻堂つじどうをどうにかしようとしたのは百目鬼どめき瑞葉みずはです。家とは関係なく動いているようなので、百目鬼どめきは全く関係ないですね」

瑞葉みずはってあの我儘放題お嬢様よね、なるほど。って事は久義ひさよしがあんなになっていたのは半分以上瑞葉みずはのせいってわけね」

「そうでしょうね。自分の方になびかせる為ならなんだってやる人ですから、自分を頼るように状態を更に悪化させるように細工をしたんでしょう。だから自分は辻堂つじどうにすぐにでもさかきさんの所へって言ったんですが、仕事があるからって悠長なことを言ってすぐには行ってくれなくてあんなことに」

 ため息交じりに言う道祖土さいどの言葉に「そんなこと言ったって仕事が」と小さく反論する辻堂つじどう

 ふくれっ面になりかかった辻堂つじどうの頭を軽くポンポンとたたいて廉然漣れんぜんれんは微笑む。

「そりゃあの時は自分の力が何なのか分かってなかったから急ぐ必要はないと思って仕事の方を取ったんでしょ。仕方ないんじゃない、貴方達は人間で現代文明は物々交換で成り立っているわけじゃないんだもの。生きていくために仕事を優先するのは当然の事。でも、今は理解しているでしょ?」

「えぇ、まぁ。信じられないけれど事実自分が経験したことだから信じるしかないですし」

 辻堂つじどうは大きなため息をつきながら宿香御堂やどこうみどうでの出来事を思い出していた。

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