「さて、ここなら知哉ともや君も居ないし絶対に話を聞かれることはないから何でも質問していいわよ、久義ひさよし

 廉然漣れんぜんれんが言うと、それじゃお茶を用意しますねと道祖土さいどは部屋を出て台所へ向かい、その背中に向かって「お茶菓子もね」と廉然漣が言う。

 辻堂つじどうは二人のやり取りを目で追ってみていたが視界から道祖土さいどが居なくなると廉然漣れんぜんれんに聞いた。

道祖土さいどに聞かれても良い話なんですか? その、知哉ともや君のこととか」

「聞かれても言いどころの話じゃなくって、あきらは私たちが何をしにここに来たのかってことまで知っているわよ」

 廉然漣れんぜんれんの言葉に辻堂つじどうはただ目を丸くして首を傾げる。

「呼ばなくても玄関が開いたでしょ? あれは私たちが家の前についたことを彼に教えた奴がいるのよ」

「え? 人影なんてなかったですよね、それに番犬みたいなのも居ないし」

「彼はね、その名の通り道祖神どうそじんを飼っているのよ。道端の神様で辻によくあるでしょ、石みたいなのが祀られているの。あきらはそのすべての道祖神どうそじんと交流できるし操ることもできる飼い主」

 廉然漣れんぜんれんがそう説明していると、お盆にお茶の入った湯呑と、まんじゅうを盛った皿を乗せて帰って来た道祖土さいどが不機嫌に言葉を遮った。

「またそのような言い方を。何度言えばわかるんですか。私が彼等の主というわけではありません、彼等とは友のような関係で、自分は彼らの目や力を借してもらっているだけなのです」

「友ですって? 良く言うわね。力関係で言えばあきらが主で道祖神どうそじんの連中は下僕みたいなものじゃない。彼等が見て聞いて感じたことをあきらが受信し、命令を下す、飼い主と言わずしてなんというっていうのよ」

 道祖土さいどの言葉を笑い飛ばしながら言った廉然漣れんぜんれんは、目の前に置かれた湯呑を持ってお茶を喉に流し込んでから辻堂つじどうを見つめる。

久義ひさよしは道祖神ってわかるかしら?」

「名前くらいは聞いたことがありますけど」

「そうでしょうね、今現在となってはその成り立ちも信仰も、人によっては姿かたちすら知らない人が殆どだもの。道祖神どうそじんっていうのは、長い人の歴史の中でいろんな神様と習合しちゃったりしていたりするんだけど、道祖土さいどが飼える道祖神どうそじんはそう言うのとは違うと思ってちょうだい。道祖土さいどが扱えるのは姿形は石造だったり石碑だったり、場合によっては大きめのどこにでもありそうな石だったり。民間信仰の一つで道辻や村の境目に置かれていたものよ。つまり、人々が人々の勝手な願いや思いを託した只の石ころね。自分たちが住まう村に厄災が入らないようにとか子孫繁栄とか。大抵は道端にあったりするから旅の安全祈願っていうのが目的だったりするわね。だからね、全国そこらじゅうに居るわけよ。そしてそれら全てが道祖土さいどの目であり耳。余程の力の持ち主で無ければあきらを欺くことなんてできないわよ。もちろん私は楽に欺けるんだけど、今回はここに着いてからあきらに説明するのも面倒だからわざと聞かせてあげていたの」

 鼻息を得意げにふふんと鳴らして説明を終えた廉然漣れんぜんれんの横から、お茶を出し終わって腰を下ろした道祖土さいど辻堂つじどうを見ながら付け加えた。

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