「それじゃ、さっき喰われるって言ったのは廉然漣れんぜんれんさんの事ですか?」

「あぁ、そうだ。なんせ雑食だからなこいつは」

「やだ、雑食だなんて。私だって好き嫌いぐらいあるわよ、失礼しちゃうわ」

 「くう」と言うのはそっちの意味だったのか? と知哉ともや廉然漣れんぜんれんを警戒して少し距離を取れば辻堂つじどうも同じく距離を取った。

 二人の反応に廉然漣れんぜんれんはぷくっと頬を膨らませて睨み付ける。

「なんて失礼な態度なのかしら!」

「賢明な態度だと思うがな」

 みことが冷静に言えば廉然漣れんぜんれんはふんと鼻息を一つ飛ばした。

「言ってるでしょ、好みがあるのよ、好みが! それに私だってね、何でもかんでもツマミ食いしたりはしないわよ。そりゃ、漂ってきた香りがあまりにも魅力的な子だったから、ちょっとつまみ食いにいただいちゃおうかしらって思ったけど、その後久義ひさよしに会って、これなら神子みこちゃんの目を盗んで知哉ともや君を貰わなくても、そのうち久義ひさよしが私好みの連中を連れて来てくれるだろうって考え直したのよ」

「え! 辻堂つじどうさんが?」

 プンプンと可愛らしく怒りながら言う廉然漣れんぜんれんに、みことは「あぁ、なるほどな」と反応を返したが、知哉ともやは驚き ながら辻堂つじどうを見る。

「はぁ、まぁ道祖土さいどに聞いてからですけどね」

 辻堂つじどうはそう廉然漣れんぜんれんに返事をしており、知哉ともやは更に驚いて口をあんぐりと開けた。

(トイレでショックを受けたって言っていたから、辻堂つじどうさんはノーマルなんだと思っていたのに、違うのか? なんだこれ。もう、わけがわからない)

 頭の中が混乱して腕を組み考え込んでいる知哉ともやの肩にみことが手を置く。

「忘れているかもしれないが、どたばた騒いでいる内にお前の昼休みは短くなっているからな。時間厳守、忘れるな」

 みことに言われ時計を見てみれば、何だかんだと騒いでいる内に三十分も経ってしまっていた。

 早めに食事を終え片付けをしたのち、台所の掃除の続きをしようと思っていたのにと知哉ともやは慌てて食事を済ませて後片付けを始める。

 その様子を横目に廉然漣れんぜんれんが首をかしげていれば、みことはふぅと小さく息を吐いた。

「あれは家事手伝いで此処の従業員だからな。給料分はしっかり働いてもらわんと困る。それに、奴はまだ全然気付いていない。まぁ、今の段階で気付かれてもこまるんだが。だから二人とも余計な事は言うなよ」

 強い口調で言い放って、みこと宿香御堂やどこうみどうへ帰って行った。

 それを聞いた辻堂つじどうは少し首を傾げて廉然漣れんぜんれんの方へ視線を送る。

宿香御堂やどこうみどうに行った後だから俺にでも分かりますけど、気付かせちゃいけないんですか? 俺とは少し違う感じでも同じようなものでしょ? あれって。だったら知る方がいいような気がするんですけど」

 台所で片付けをしている知哉ともやに聞こえないよう、小さな声で廉然漣れんぜんれん辻堂つじどうが聞けば、廉然漣れんぜんれんは首を横に振った。

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