辻堂つじどうは分かってないみたいだけど、君の体はよく鍛えてあって、普通の人よりも体力があるからまだその程度で済んでいるんだよ」

「そうなのか?」

「うん。君じゃなく、もし自分がそうなっていたら、多分もうこの世にはいないだろうね」

 顔に影が差し、無表情だった顔の唇の端が少し持ち上がって笑ったように見え、それはとても冷たく背筋に悪寒が走るような笑顔。

 驚き思わずまさか! と笑い半分に飛び出してきそうになった言葉を飲み込んだ辻堂つじどう

「はぁ、自覚がないって凄いね。それほどのことだってちゃんと理解してくれた?」

 喉仏を上下させる辻堂つじどうに、道祖土さいどは瞳を半分開き鋭い視線を向ける。

「う、うん……」

「その様子じゃ『しっかり理解』というところまでは行ってないみたいだね。鈍感もここまで行けば中々どうして凄い特技だと思うよ。しっかりと頭に刻み込んでほしいから言うけど、今の辻堂の状態は『まだ死んでいない』ってだけだからね。今時バイクじゃなくって自転車で新聞配達をこなしてしまう、長年培ってきた筋肉と有り余った体力のおかげでかろうじて生きている状態なんだよ」

「かろうじて……。じゃぁ、俺は死んじまうのか?」

「このままいけばね」

「な、なんとかならないのか?」

「君の今の状態を自分がどうにかするのは難しいかな、残念だけど。今、少し楽だろ? 一次的に辻堂つじどうの力を増やしてやっているからなんだよ。それくらいの事はしてあげられる、でもねそれは根本的な解決にはなってなくって、この部屋を出れば辻堂つじどうはいつも通りの力となるから結局は同じことだし、なによりもっと酷くなって辻堂つじどうの力を上げても意味をなさなくなってしまう状態になる可能性もある」

「じゃぁ、やっぱり百目鬼どめきっていう人の所に行くしか」

「相変わらずせっかちで結論が早いね。今言ったのは自分ではどうにも出来ないってことであって、別に手が無いとは言ってないよ。第一手が無ければ自分はここに辻堂つじどうを呼んだりしないよ」

 道祖土さいどの言葉に再び驚き瞳を丸くした辻堂つじどうは、手紙も来なければ電話もなく、呼ばれた覚えはないと言うが道祖土さいどは首を横に振る。

「手紙では間に合わないかもしれないし、自分は辻堂つじどうの実家の番号は知ってるけど、今の所の電話番号は知らないもの。そういうんじゃないんだ。それは今の辻堂つじどうに説明しても分かってもらえる物じゃないけど、自分はその名前の通りすべての道祖神どうそじんと繋がっているし、そこから力を発することが出来る。その力で辻堂つじどうの深層心理をちょっと動かして自分を思い出させたんだ。まぁ、それは辻堂つじどうがもっといろんなことを知ってから詳しく教えてあげるから、今はそんなことよりも早急に、今すぐにでも辻堂つじどうはここに行ってよ」

 そう言って渡された紙には「宿香御堂やどこうみどう」の文字とそこへ向かう為の地図が書かれてあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る