4
「知らなければ知ればいい、勉強すれば済む話だ。何より知らないのなら妙な知識が先に入ってなくて勉強すればするほど身につくだろうさ」
「そ、それはそうかもしれませんけど」
「雑用はまず家事全般、必要な物は買い出しにも行ってもらう。よって、日々の筋力トレーニングも付け足しだ」
「トレーニング?」
「わからないか? 買い出しをするということは、麓まで下りて荷物を持って上がるということだ。つまり……」
「まさか! あの山登りを?」
「そういうことだ。ちなみにうちはネット販売もしている。宅配屋はここまで登ってきてはくれないからな、商品発送も麓まで下りて出してもらう場合もある。それに、郵便物等も麓の山道入口に届くから一日一回取りに行くように」
「まじか、嘘だろ……」
「嘘などついてどうする? 大丈夫だ、私はその生活をずっとしているが死んでないからな。慣れれば大したことじゃない」
「慣れるまでは?」
「だから、トレーニングだ」
お先真っ暗だと
母親によって有無を言わせず
にやにやと楽しげに
「この部屋はお前の部屋だ。好きに使って良いが、家自体を傷めることはしないよう丁寧に使うこと」
不気味な笑顔を見せながらも、今日はとりあえずゆっくりすればいいと
「それはありがとうございます」
ふてくされながら返事をした
「それと、明日までに文机の中にある
「五時! 早すぎ……」
「何を言う、朝日と共に目をさますのは原始時代からの人間の営みだ」
「原始って」
「雇い主のいうことを聞かないのであれば、こちらとしても給料を払う必要はないと判断するが、いいのか?」
「……了解、しました」
布ずれの音だけが遠ざかって行き、静寂の中で
家族以外の人物の会話、しかも面識のない偉そうな態度の人間、加えて
「僕、やっていけるのかなぁ」
ため息混じりに枕もとに置かれている水差しを手に取り、コップに注いで一口。乾いた喉を潤し、足を崩して背中から布団に倒れ込む。
体力を付けろと言われたからには、日々の生活それ自体に体力が必要であり、あの山登りもまた日常生活の一部なのかと寝転びながらも出てくるのは溜息ばかりだった。
「まぁ、何にしてもやらなきゃダメなんだけど。帰る訳には行かないもんな」
ここで香御堂の仕事を投げ出して帰ったとしても、無理やりに自分を送り出した母親がすんなり受け入れてくれるとは思えないし、自分を締め出すのは確実だ。
以前まではそれほど厳しくはなくそう言ったイメージはあまりなかった母親だが、ここに来る数日前から堪忍袋の緒が切れたのか妙に厳しくなり「
確かに一か月も息子が何もしなければそう言った態度になるのも当然かもしれない。
あきらめ半分にとにかくこの
あぁ、波の音だ。
波打つ水の音の中に打ち寄せる波が弾け飛ぶ音。岩に向かってきた波が叩きつけられ弾ける。
岸壁の上にたたずんでいるようだ。
もしかしてこの
上ってきた場所の周辺にそんなところは無かったように思うけど。
こんなにも今ははっきり聞こえてくるのだからきっと近くに違いない。
でもさっきまでは全く気が付かなかった。
どうしてだろう?
すぐ裏手にあると言うわけではないのだろうか?
海は好きだ。波の音も心地いい。
そして、懐かしい。
懐かしい……、懐かしいだって? どうして懐かしいのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。