7.Direct Contact―2
戦闘航宙艦が戦う空間戦闘は、そのほとんどが反航戦――往古に存在した槍騎兵のそれにも似た正面きっての交叉戦闘である。
仮に先手を取って探知捕捉が出来たとて、攻撃射程におさめる以前に向こうもこちらの存在に気づいて針路を変更、向かってくる。
戦わずに逃げる、という選択肢は(こちらにせよ敵艦にせよ)もちろんあるが、〈ホロカ=ウェル〉銀河系内を航行している航宙船は、まず間違いなく航行の基本原理が反動推進式。
つまり、主機が無防備に
そして、一方、攻撃をくわえる側にしても、敵艦を真後ろから追撃するのは、超高速で吐き出される推進炎をまともにかぶることにもなりかなねないから、自艦(特にセンサー)に被害がでかねない攻撃法は、すすんでおこないたいものではない。
よって、後方からの攻撃は、シチュエーションとしておこりにくい。
側面攻撃についても、(射程圏内にいる敵艦が、にもかかわらず、こちらに気づいていないという前提をいれるのでなければ)航宙艦の移動速度が光のそれに比しても無視できないレベルであるため、ほぼ不可能だ。
標的の未来位置を精確に予測する難易度が、正面攻撃とくらべて格段に高いからである。
だからこそ、見敵必戦ではないが、戦闘航宙艦が戦う空間戦闘は、そのほとんどが反航戦――馬上騎士の
少なくとも高橋少佐――〈くろはえ〉が属する輸送船団と、それを撃滅すべく来襲してきた敵艦隊が、衝突コースにのって、刻一刻と互いの距離を縮めつつある理由は、まさしくそれに他ならなかったのだ。
(これを
制動噴射が終了し、ふたたび艦がぐるりと旋回するのを体感しながら、高橋少佐は思う。
双方に戦闘続行の意志がない場合、戦闘航宙艦の空間戦闘は、およそ一度きりのものとなるのがほとんどである。
反航戦にて軌道が交叉し、刃をかわして、すれ違うと、相対速度がおおきすぎるが故に再度の攻撃にそなえて態勢を立て直すのに、かなりな時間を要するからだ。
はなしを輸送船団をめぐる攻防に限ってみれば、輸送船団側には、もちろん、戦闘を継続する意志などないから逃げの一手――相手がふたたび襲いかかってくるより早く遷移にはいって逃げ切ろうとする。
巨視的に見ればジグザグ状となる恒星間航路――前回の遷移から常空間へ跳びだし、次回の遷移へ繋ぐべく航宙船の針路を大変更する。常空間における空間戦闘は、輸送船団をめぐる攻防については、まさしく、そのタイミングで生起するものに他ならず、次なる遷移の準備が整ってしまえば長居は無用――輸送船団側は裏宇宙にとびこみ(取りあえずであれ)追撃を振り切ろうと死力を尽くすのだ。
輸送船団側の護衛艦の配置は、船団前方より一、三、四隻。
〈くろはえ〉が務めた前方警戒の『
『
そして輸送船団直掩となる護衛本隊が四の合計八隻という構成だった。
対する襲撃側は、二、二、六――合計一〇隻のようと観測されている。
船団の行き足を止める爆雷投射艦が二、
おそらくは改装軽空母なのだろうものが二、
そして襲撃本隊が六の合計一〇隻からなる艦隊なのだと推定されていた。
これら敵味方あわせて一八隻の航宙船群が、闇黒の虚空を
「番傘艦群、本艦をオーバーラップ。航行序列、順位変更。これより本艦、船団中位に占位します」
航法長が言った。
船団のなかで唯一その速度を減じていた〈くろはえ〉が、加速中の船団に追いつかれ、追い抜かれしたと言っていた。
それまで位置していた船団最前列から、第二列を形成している番傘艦の後方にまでさがったのだ。
あわせて、新しい配備箇所である船団中位――輸送船群の真ん中にポジショニングする旨を報告している。
以降は護衛艦群の予備――遊撃として、敵の攻撃が集注し、味方の手薄な箇所をささえる一種、切り札役として、〈くろはえ〉は船団内部を自在に
「了解。船務長、
「アイマム。本艦バリアー展張準備――フィールドジェネレータ用意よし。励起システムに問題なし。出力、正常に増加中。バリアー展張、いつでも
高橋少佐の指示に船務長が応じる。
「艦長、番傘艦群、広域バリアー展張を船団全船に告知してきています」
ついで、タイミングよくと言うか、折しも今、受信したばかりの情報を口にのぼした。
番傘艦。
それは、輸送船団に先行し、前方より迫る敵の攻撃に対して船団全体をカバーする防御帯を展張する役目を担う艦。
通常、三乃至四隻で構成された輸送船団の第一次防衛ラインである。
正面から見ると正三角形(もしくは正方形)、横から見るとほぼ同一平面上に並んで航行する番傘艦は、護衛駆逐艦に特有の広域バリアーを展張し、もって、敵がしかけてくる爆雷の飽和攻撃をはじき、或いは威力を減殺するのだ。
パスファインダーたる〈くろはえ〉が、敵攻撃の実行あるを確認、通報し、かつ、その退避が完了したため、ただちに実働状態にうつったのだった。
輸送船たちが直掩の護衛艦に指示されながら、慌てて自船位置の修正をおこなっている。
今更ではあるし、そもそも船団外縁に位置しているフネでなければ被覆域からはずれていることなどないのだが、それでも、やはり心配なのだ。
なにしろ自分の生命がかかっている。
敵駆逐艦群がはなった爆雷が急速に接近してくるなか、輸送船団のそちこちで、線香花火がまたたくような
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