Bed talk 1992年8月9日
彼女とやるときはいつも僕の部屋だった。
クラブを経営する母は夕方4時頃に出勤する。
家には誰もいなくなった。
僕たちは1度目を終え、ベッドの上、並んで横たわっていた。素っ裸で天井を見ていた。
体を通して互いの気持ちを確認した後だからこそ、また、互いの顔ではなく天井を見ているからこそできる話もあった。
「卒業したらどうするの?」
彼女は決めていた。
都内の大学に進学するのだ。
僕でも知っているような有名大学だった。
もちろん受験をして、合格する必要がある。
彼女ならできるだろう。
僕たちは中学の同級生だったが、彼女はいつも学年のトップ3だった。
今は市内最高レベルの高校に通っていて、そこでも常に成績は上位だった。
僕はどうか?
中学のときはろくに学校も行かず、今は工業高校に通っている。
そこでは卒業したら働くのが当たり前、進学する者はほとんどいない。
卒業したらどうするの?
そう聞かれたのはこのときが初めてだった。
今日は絶対にこの質問をしよう、とあらかじめ決めていたようだった。
それは聞かれて当然の質問だった。
僕たちは付き合っている。
卒業したらどうするかは僕たちの関係に大きく影響する。
彼女は答えを出している。
それに対する僕の返事は…
選択肢は2つだった。
彼女と一緒に上京し働く。
彼女と離れて地元で働く。
働くことは決めていた。
だが、そこから先はまだ決めていなかった。
とりあえず僕は答えた。
「働くよ」
それが答えになっていないことはわかっていた。
問題はどこで何をするかだった。
「そう」
とだけ彼女は答えて沈黙した。
その後、横を向いて僕の胸に顔を埋めた。
僕は彼女を抱き寄せた。
僕も彼女もそれ以上口を開かなかったのは同じ想いを共有していたからだ。
この関係がずっと続いていくなら何も問題はない。
しかし、そんなことがあり得るかは疑問だったし、それでいいのかも自信がなかった。
彼女は新しい場所で新しい人に出会い新しいことを学ぶ。
世界は広がり、視野は広がり、希求すべき何かに出会う。
僕たちは若いが子どもではない。
そんなことは分かっていたし、彼女はそれを望んでいた。
僕が彼女の近くで働こうが、遠くで働こうが世界の広がりと共に2人の距離は隔たりを見せるだろう。
それでも近くにいて彼女に会うことでこの関係を長く繋いで行くのか、母や仲間のいる地元にとどまるのか。
彼女は答えを提示している。
あとは僕が答えを出すのみだ。
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