第18話 おっさん初ダンジョンへ行く②

 地下になると、尚更暗く湿気た感じになり、身体に巡らせる魔力を増やす。


 奥に行けば行くほど、先頭のシンはもちろん最後尾のゼリシアさんの重要性は増す。


 なんというか、ダンジョンってついつい前の方に集中するし、前の方から敵が来るし、滅多に後ろから責められないから、後ろがお留守になりがちなんだよね。

 

 地下は、一階より敵は強い。

 さらに奥に行くほど魔物は強くなっていく。


「おっさん来るぞ」


 そう言って見えたのは、今までよりも二回りほど大きなスライムだ。俺の光魔法ライトが当たった瞬間左右と天井の三方向へと分かれる。


 動きは早い。

 

 シンは迷わず右の方を攻めたので、俺は慌てて左の方へ火炎球ファイアーボールを繰り出す。


 しかし、火炎球ファイアーボールは外れて壁に当たり消える。左スライムは素早く洞窟の天井や壁を跳ねる。

 その間、天井のスライムが右のスライムを回収するのを、シンが追う。


 しかし、天井スライムは一部をグローブのような型にして、ぐにょんと伸ばすと、シンにカウンターを喰らわせる。

  

 シンは綺麗に着地すると間髪入れずに天井スライムへ向かう。

 シンに心配は要らないだろう。


 左スライムが狙いを定めたのは俺ではなくセリアだった。


 セリアに向けて壁を蹴って向かうスライムに光線が当たる。


 光の一撃ホーリーブロウだった。


 撃墜されたスライムは、干からびたように小さく硬くなっていた。


「あんたしっかりしなさいよ。スライムごときで、私の手を煩わせないでよ」


「も、申し訳ない」


 後ろで、ゼリシアさんが笑っている。


 くそ、あいつ俺の格好悪いところを際立たせやがって。


 シンは天井のスライムも戦闘不能にすると、戻ってきてゼリシアさんに話しかける。


「そういえば、地下二階ってどんなやついるんだ?地下二階にその月光草があるんだろ?」


「はい、今まで同様スライムと、スケルトン、

ウィザードスケルトン、最後の部屋にはワイドトレントが一体、部屋を護っています。そこに月光草があります」


「どうした?シン。入る前に共有しただろ。何か気になるのか?」


「いや、思ったより地下一階の敵弱くないなと。ちょっと舐めていたかも」


 やめてくれよシン、そんなフラグでも立てるような話。


 とはいえ、地下一階は順調だった。

 最初驚いたデカめのスライムも、少し強くなったスケルトンも、慣れてしまえば難しいことはなかった。


 地下二階になっても、ダンジョンの雰囲気自体は変わらなかった。


 しかし、


「くるぞ!」


 突然シンが叫ぶ。


 来たのは火炎球ファイアーボールだった。

 俺も火炎球ファイアーボールで相殺する。


 最初に来たのが風刃ウインドブレイドだったらと思うとゾッとする。


「どうだ、シン敵はどこにいる?」


「わからない。よっぽど遠くから撃ってきているか、ステルス性の魔法を使っているか」


 次の瞬間、いくつもの炎が急速に近づいてくる。

 火炎球ファイアーボールだ。


 俺は慌てて氷壁アイスウォールを出す。


 10個程の火炎球ファイアーボールが次々と氷壁アイスウォールに突き刺さる。

 

 シンは、身軽にすべての火炎球ファイアーボールを躱す。


「ムネハルさん、ここは真っ直ぐ進むだけです。おそらく直線状に相手がいると思います」


「何メートルくらい真っ直ぐかわかりますか?」


「おそらく200メートルくらいだと思います」


「了解、シン火炎砲弾ファイアショットを使う」


「分かった」

 

 そう言ってシンは横に飛び跳ねる。


 俺は光魔法ライトを解除して、杖を構えて集中する。俺が無詠唱で使える最強の魔法、


火炎砲弾ファイアショット!」


 大きな炎の塊が勢い良く放たれると真っ直ぐに進む。

 壁を舐めるように照らしては、闇に落とす。


 しばらくした後に爆裂音が聞こえる。

 火炎砲弾ファイアショットは、混合魔法で、火と風の属性を持つ。

 敵に当てて爆発させる範囲攻撃魔法で、遠くの敵に使い勝手がよい。

 "混合魔法に挑戦しよう!中級編"読んで習得しておいてよかった。


「よし、駆けるぞ!」


 シンが走り出すのを追いかける。

 確かに炎が通った直後は安全度は高い。


 扉が見えるとちょっとした広間みたくなっていた。骸骨の焼かれた後が何体分か見える。

 

「まだ、三匹くらいいるな」

 

 その瞬間柱の影からスケルトンが出てくると、一気に襲ってくる。


 俺は火炎球ファイアボールを放つが盾で防がれる。


 俺はここぞとばかりに杖を捨て剣を抜く。

 

 しかし、剣を振りかざしたスケルトンが振り下ろす前にスケルトンは崩れ落ちた。

 そのすぐ後ろにいたはずのスケルトンも倒されている。


 ゼリシアさんだった。

 スケルトンの後ろに回りこみ、なぎ倒していた。

 彼女のショートソードは、うっすら黄色く光っている。


 残りの一体はシンが倒す。


「ゼリシアさん、強いですね」


「そうよ、この若さでBランク冒険者だったんだから」


 なぜお前セリアが答える。しかし、確かにこの若さ、あれ、いくつだっけ?お店では二十歳だと言っていたけれど。

 いや、聞けないけど。


「いえいえ、私なんてまだまだです。それより

急ぎましょう」


 ゼリシアさんは扉に近づく。


「扉のところに魔力を込めると周りの魔法石が辺りを照らし、扉が開きます。開いたらすぐにワイドトレントの攻撃があると思ってください」


「了解した」


 シンとセリアも頷く。


「では、行きます」


 そう言ってゼリシアが魔法を込めると、辺りが明るくなっていく。

 

 そしてゆっくりと扉が開き始めた。


 その瞬間、


 ギンッ


 鈍い音が聞こえた。




 

 


 

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