第14話 おっさん早くもレア食事

 遠くから聞こえる雄叫びは、どんどん近づいてくる。ドラゴンはこの雄叫びをだいぶ気にしている。


 「おいおい、やっぱりこっちに向かっているよな?」


「そうね」


 セリアは静かに答えて空を見上げる。

 暗い空に幾度も雄叫びがこだまする。


 シンもドラゴンから離れ俺とセリアのそばに戻る。


「なんなんだいったい、もう一匹来るのか?ただ、今が逃げるチャンスかもな」


 俺たちはドラゴンに注視し、隠れながら遠ざかることにする。


「もはやこっちを見ないな」


「おお、いけそうだな」


 シンが答える。


 雄叫びの主が見えた。

 目の前のドラゴンと同じくらいのサイズのドラゴンが、急速に近づいてくる。


 そのまま滑空する様に向かって来るドラゴンに対して目の前のドラゴンが火の息ブレスを吐く。


 ギリギリで新しく来たドラゴンは旋回して、そのまま爪をたててドラゴンに覆いかぶさるよう襲う。

 背中に人影が見える。

 

「すまない、ちょっと離れていてくれ」


 ドラゴンに乗っている青年が叫ぶ。


竜騎士りゅうきしか?」


 驚くシンに

 

 セリアは、満面の笑顔で答える。


「ええ、そうよ、彼はサントロ王国の竜騎士シュウトよ」


「なんだ知りあいか?」

 

 驚くシンに


「うん、2年ほど前私もシュウトもお互い見習いの時にサントロ王国で会っているのよ、

助かったわ。さ、下がりましょ!」


 と言って安堵する。

 

「手伝わなくて良いのか?」


 俺の質問に


「あんた、私たちが行ったところで足手纏いになるだけに決まっているでしょ」


 セリアは怒鳴る。


 にわかに信じられないが、やはり竜騎士は、ドラゴンより強いのか?完全にシンもセリアも安心している。


 ただ、ドラゴンとどうやって戦うのか見ることができるのは、ラッキーかもしれない。

超アリーナ席だ。

 

 シュウトは、ドラゴンから降りると迷い龍に近づく。


「おいおい、大丈夫なのか?あんな無防備に近づいて?」


「うっるさいわね、黙ってみてなさいよ」


 シュウトが歩み寄ると、迷い龍は後ずさる。

 まさか怯えているのか?


 迷い龍は近づくシュウトに火のブレスを吐く。

 シュウトは左手をかざして光の壁のようなものを出すと、炎は裂けるように別れてシュウトには当たらない。


「おいおい、なんだあれ、どうやったんだ?」


 うっかり心の声が漏れる。


「相変わらず、うっさいわね。私もよく分からないわよ」


 シュウトはゆっくり剣を抜くと一歩ずつ近づいて行く。剣の刃の部分はうっすら光っている。


 迷い龍から周りに粉塵が舞った瞬間


 バチンッ


 と、大きな音をさせながらもシュウトの歩みは止まらない。


「強引に土魔法で、上書きして爆風ブラストを消しやがった。しかも足で」


 シンが驚いている。


 そこから急激にシュウトの動きが速くなる。剣が石にぶつかるような鈍い音がする。だがその剣先はしっかりと迷い龍の腹を切り裂く。


 迷い龍は、足掻あがくように前足の爪でシュウトを引き裂こうとするが、簡単に身を躱す。

 その先を狙って迷い龍は顔を突き出し牙を向けるが。シュウトは爆風ブラストでいなす。


 迷い龍は逃げようとわずかに浮かぶのを、シュウトは押し潰すような下降気流ダウンバーストで迷い龍を堕とす。

 その風圧は、離れた俺たちの所まで強い風となってやって来る。


 迷い龍が回復魔法ヒールをかけるが、傷の治りより、シュウトの斬撃の方が大きく数が多い。


 そしてシュウトの剣が一気に輝くとその剣を迷い龍の胸の真ん中辺りに突き刺した。光が身体を突き抜ける。そのまま剣で円を描くようにその一部をくり抜く。

 そのくり抜いた先には灰色の宝石のようなものが輝いている。


 グオォォォッ!!


 迷い龍は断末魔をあげると倒れ、地面を揺らす。


 倒れた迷い龍から生気が抜ける。


「まじか、圧倒的強さじゃねぇか」


 俺の言葉にシンも同意する。


「そうだな、流石にこれほどまで一方的だとは」


 俺達はシュウトの方へ近づく。シュウトは、回復薬らしきものを飲むと剣の手入れをして、鞘に入れる。


「シュウト、久しぶり」


 ある程度近づくと、セリアは駆けよりシュウトに抱きつく。


「お久しぶりです。セリアーナ姫」


 シュウトは笑顔で迎える。


「今は冒険者になって、セリアよ」


「そうでしたか、ついに冒険者になられたのですね」


「うん、あそこにいるおっさんとチンチクリンが私のパーティー仲間よ」


「シン、なんかあいつに何か言われているぞ」

 

 小声でシンに話すと


「おっさん、あんたが仲間にしたんだからちゃんと教育しろよ」


 俺は返す言葉もなく、シュウトに挨拶する。


「どうも始めまして、ムネハルです。こっちがシンです」


 俺が握手を交わすと、シンも面倒臭そうに握手する。


「どうも初めまして、サンドラ王国龍騎士団のシュウトと申します。早速ですが、このドラゴンの処理をしますが、お肉食べます?」


「まじか?もらう」


 俺は速攻答える。ドラゴンの肉を食べられるなんて、まじで生きてて良かった。


 シュウトは土魔法でドラゴンを仰向けのまま盛り上げるように高台を作ると、水魔法を使い血を流しながら綺麗な龍捌きで解体する。

 その間、彼が乗ってきたドラゴンは少し離れた所で待機している。さすがに解体している所は見せないらしい。


 肘と膝の先、頭と尻尾を切ると、うまく腹側の方から線を入れては皮を剥いでいく。背中以外の皮を剥いだところで、風魔法と剣を使って食堂から肛門まで切り抜くと土魔法を使って上手く傾かせたり剣を使ったりして、内臓を取り出す。


 心臓ハツ横隔膜ハラミ以外は俺たちが燃やして埋める。

 

 燃えかすには人骨が出てきて、食べられた2人の盗賊のことを思い出す。


 埋めると俺とセリアは祈りを捧げる。


 改めてここの世界が弱肉強食だということを認識させられる。とにかく強くならなければ。


 ハツとハラミを焼きながら食べる。

 うまい!

 油身はそんなにないけれど、肉自体がうまい。

 まあ、正確にはホルモンかもしれんがどちらでも良い。ジルさんに持っていくように言われた塩。

 まさか本当に使うことになるとは思わなかった。


 シュウトは背中の皮を剥ぎ、概ね解体が終わると、いくつかに身体をざっくり分けて、最初の方に切り落とした手足や頭、尻尾と共にそれぞれに氷魔法をかけると再び回復薬を飲む。


 相当重労働なのだろう。いや正直ドラゴンを倒す数倍解体は重労働で、難易度が高いだろう。


「シュウトさんは食べないんですか?」


「僕ら竜騎士は、竜騎士見習いになった時から、ドラゴン肉を食べることを禁じられています。遠慮なさらず食べてください」


 まあ、なんとなく分かる。

 同種を食べた人を背中に乗せたくはないだろう。

 

 とりあえず今日も生き延びれてよかった。

 

 

 

 


 

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