第12話 おっさんと招かざる客

「ほう、やはり大人は話が分かる」


「それよりお前たち何者なんだよ」


 シンは、今にも噛みつきそうに吠える。


「おっと、これは失礼したかな。確かに交渉なのだから名乗らないとな」


 男は冷静だ。こっちも冷静にならないと判断をミスる。

 ただ、判断の遅さは致命傷になりかねない。冷静にというのはもしかして有利側の人の話で、不利な方は冷静でない方が良いのか?


「私は、ヌレドア。"ミザリーのしもべ"に所属している」

 

 そこまで言っただけで、シンが一瞬でヌレドアに襲いかかりながら怒鳴る。


「おっさん、剣を構えろ」


 俺は訳も分からず言われるがまま、ショートソードを抜く。やけに生々しい重さが手に乗る。


神聖なる円ホーリーサークル


 シンに呼応するように、セリアが呟くと、辺り一体がほんのり白く輝く。結界だ。


「チッ!」


 ヌレドアは、舌打ちすると後ろに飛び跳ねながら、シンの剣を再びダガーで受ける。

 金属がぶつかり鈍い音を放つ。


 他の3人も、習うように後ろへ飛ぶが、一人が玉のようものを三つ放り投げる。その一部からは煙が出ている。


 しかし、その隙をセリアは見逃さない。


聖なる一撃ホーリーブロウ


 セリア胸の辺りからヌレドア以外の3人に向かって光線のような物が発射されると、見事に命中する。


「ぐわっ!」


「うわっ!」


「きゃぁ!」


 意外にもその中には、女性らしい声も聞こえた。


水壁ウォーターウォール!」


 俺はとっさに煙に対して水壁ウォーターウォールを使った。冷静になれば、球さえはじければなんでも良かったかもしれない。


 シンはそのままヌレドアと戦っている。

 

 しかし、すぐにヌレドアは後ろへ下がる。

 それに合わせてシンも結界内に戻る。

 俺も剣をしまい杖に持ち替える。


 戻ったシンはヌレドアの動きに注意しながら、俺の横に来る。


「おっさん、あいつら盗賊団"ミザリーのしもべ"は、誘拐、殺人がメインな盗賊団だ」


 そこまで聞いて、ふとセリアの方を見る。


「そう、しかも本拠地は我がキルヒス教国が最も近いと言われているわ」


 そう言いながらセリアは結界を解く。

 白い光が消える。 


「つまり、セリアが狙われていたってことか」


「ああ、交渉は間違いなくセリアを引き渡せとかだな。わざわざこんなところまで来るとはな……」


 そこまで言ってシンいいよどむ。


「とにかく現状はかなりやばい。このままここにいてもジリ貧だ。相手のボスであろうヌレドアを倒すか、逃げるかだな」


 どちらも成功の可能性は低い。ヌレドアの周りにはすでに回復された先程の3人もいるし、最悪ヌレドアよりも強いボスがいないとも限らない。


 逃げるにしてもすでに包囲されていて、一番薄いところから包囲網を抜けたとしても、あのスピード集団から逃げ切れる気はしない。


 もはや詰んでいる。


 ただ。わずかながら可能性が残るとしたら。


「ヌレドアを倒して、撤退してもらうことを祈るしかないか」


 俺がそういうと、シンも頷き、セリアも頷く。


 そうとなれば、シンに先駆けしてもらい、俺は後ろで援護。

 セリアはちょっと不安だが、此処で結界の中にいてもらって、援護射撃してもらう形だろうか。


 考えている間に、何か音が聞こえた。

 何かの鳴き声だろうか。


「まずいことになったぞ、おっさん」


「そうだな」


「そうじゃない、おっさん」


 ヌレドアの方を見てもみんなして空を見ている。


 それにつられて俺も空を見る。


 それを見た瞬間、俺は恐怖とか、どうしようとか全く考えられなかった。

 月夜をバックに旋回するそれを、俺はただただ綺麗だと思った。


 まさか、ドラゴンに出会でくわすとは思わなかった。


「迷いりゅうだ、なぜこんなところまで」


 俺らもヌレドアたちも、しばらく空を眺めたあと、すぐに岩陰や木の陰に隠れるように身をひそめる。何人かは包囲上まごついている。


「迷いりゅうって?」


「俺もよくわからない。いつもの生息地域から遠く離れたところにいるドラゴン全般そういうんだが、問題は奴がお腹を空かせている可能性があるということだ」


「このまま通り過ぎてくれないのか?」


「そう願いたいけどな」


「難しいわね」


 セリアが割って入ってくる。


「元々ドラゴンは、襲ったりテリトリーを侵さなければほとんど人を襲って来ないわ。迷い龍も色々いるけど、おそらくあれは老龍ロウリュウ。死に場所を探している間に、空腹になり、獲物を見つけたのよ」


「やはりそうか」


 シンは納得するが、

 いまいち俺はピンとこない。


「まだドラゴンについては色々分からないことが多いけど、旋回と鳴き声が魔力の少ないドラゴンが使うコミュニケーション方法と言われていて、単円の旋回は自分の餌場テリトリー表明だと言われているわ」


「食事前の儀式ということか」


 死ぬ前に最期の晩餐気取りとは、なんて迷惑な奴だ。全くもってお呼びでない。


「そうね」


セリアがそう言った瞬間、ドラゴンが雄叫びをあげる。


 ドラゴンが急降下してくる。

 逃げようと思っても身体がうまく動かない。しびれている。


 ドラゴンは、そのまま地面すれすれで滑空

すると、逃げ遅れ動きの鈍った2人の盗賊団に喰らいついた。

 なす術もなく2人は喰われると、ドラゴンは再び上昇する。口からはみ出た一本の脚が、ぶつりと切れて地面に落ちる。


 痺れは切れ、何事も無かったように身体は元通り動く。


 なんというか、初めてこの世界に来た時は、ドラゴンとかもいるんだろうなぁ、とか思っていたけど、まさかこんなレベル差ある時に出会すなんてね。


 まいったよね。もはや笑えてくる。


 あはははは。


「おっさん!しっかりしろ」


 ふとシンの声に我に帰る


「おっさん!ちゃんと集中していつもより多く魔力を体内に循環させろ」


「あ、ああ、わかったすまない」


「この混乱を機に逃げるぞ」


 なるほど、確かに考えようによっては幸運かもしれない。


 俺は集中して体内に魔力を巡らせる。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る