第11話 おっさん旅立つ

 それから一週間、宿屋で働きながら準備をした。

 出かける前日には、シン、セリアーナを連れて、少ない期間ながら接した人達に挨拶を済ませておいた。

 やっといて損はないだろう。


 そして当日、まだ日が昇る前に教会堂に泊まっていたセリアーナも宿屋で合流して、村を出ることにした。


「また、近くまで来たら必ずよりなさいよ」


 ジルさんは、笑顔で弁当を持たせたくれると大きな声でそう言った。


 前日にはしっかり働いた分として金貨30枚ももらった。なんともありがたい。最後までジルさんに甘えてしまった。


 村を出る瞬間、

 新しい冒険が始まると思うと興奮した。

 ゆっくり一歩を踏みだす。


「おっさん早くしろよ」


 シンにどつかれながら、西にある街。ギアリアの街へと向かう。



 五時間ほどただ歩いた。


 その間何も起きなかった。

 なにもだ。信じられん。

 ただひたすら歩いて、最初高かったテンションもほとんど変わらない景色、ひたすら真っ直ぐの道に早くもうんざりしていた。


 いや、決して魔物と戦いたいとかじゃないんだけどね。


 ギアリアの街までは、ガナリア村から約100キロメートルで、行く手段は3つ。1つ目は歩いて2日かけて行く。2つ目は馬車や馬などの乗り物を使う。3つめは走る。


 それぞれ俺は1つ目、セリアーナは2つ目、シンは3つ目、を推していた。


 そもそも、乗り物代なんてないし3つ目の走るってなに?俺ハーフマラソン3時間くらいかかったんですけど。

 

 そんなことを考えながら、ふとお姫様の体力が気になった。


「セリアーナ姫大丈夫ですか?」


「大丈夫よ。それに私のことはセリアでいいわ。私の冒険者名はセリアよ」


 そうだった確かに、わざわざ丁寧語は面倒だ。


「では、セリアちょっとキルヒス教の話聞いて良いか?」


「ふふふ、喜んで!」


 そう言うとまくし立てるように話し始めた。

 そして心に決める。

 今度はしっかり稼いで乗り物使おう。多分一番体力ないの俺なのだから。



 さらに6時間ほど歩くと、陽は少し落ち始めていた。


 休める場所はシンが見つけてくれた。

 道から少し離れた岩山を背に、身体を休めることにする。

 結界はセリアが張る。

 そもそも軽い結界は歩きながら張っていたらしく、モンスターが出なかったのは、そのおかげもあるらしい。


 休む用の結界石を使った結界はたいそう自信満々で、四方約20メートルほどの結界には、魔物はよっぽど強くなければ近寄ることすら出来ず、もし侵入を許したときには、しっかり気づくらしい。

 俺はともかくシンも驚いていた。

 

 そしてここに来てやっとジルさんの弁当を食べる。ガナリア猪の焼豚チャーシューと、サンドイッチが入っていた。

 かなり豪華でありがたい。


 休むとき、セリアはさっさと寝てしまったよっぽど結界に自信があるのだろう。


「本当にあいつ気づくのかな」


 俺とシンはセリアの力を信じきれず、輪番で見張りながら休むことにした。


 この日のために、シンに索敵の魔法も教えてもらった。まだシンほどうまく使えないが。


 シンを先に休ませると、空を見る。すでに空は暗く星が見える。この世界の星はよく見える。村でも見えたがやはり外の方がよく見えるし、綺麗に見える。


 星や外を見ている間に、シンとの交代の時間になる。意外に一人の時間は早く過ぎた。


「おっさん交代だぜ」


 そう言われて、安心して横になる。


 しかし、うとうとしてすぐ、


「おっさん」


そう言って揺り起こされる。


「ん?」


寝ぼけていると、シンは言葉を続ける。


「どうやら囲まれているみたいだ」


「いつのまに?」


「正直、結界のせいで感度が鈍いんだ。ただ、もう少しで20メートルくらいになると思う。相手は8人以上だな」


「人?」


「ああ、魔物じゃない。人間だ」


 なんてことだ、盗賊か何かなのか?しかも8人以上だなんて。もしこちらにきたら戦うのか?

 周りを見ると確かに何人かの人影が見える。


「なんなの?こんな夜中に私の結界に入るなんて」


 セリアが起きてきた。

 どうやら結界の力は本当だったみたいだ。

 ということは、相手はすでに20メートル以内にいるということか。


「この結界、他人ヒトには効かないのか?」


「こんな時間にこんな所に人が来るなんて思ってないもの」


  いや、俺も思って無かったんだけどな。


「どうする?やっつける?」


「そうだな、囲うように距離を詰めるというのは敵対心の現れだろうからな」


「分かったわ」


 そう言って黙るとセリアがわずかに発光する。


聖罰ホーリーバニッシュ!」


 一言セリアが発するとフラッシュなような光があちこちで光る。


「やるわね、4匹逃したわ」


「え?残りはたおしたの?」


「気絶させただけよ」


 あっさりと、まあ。


 呑気に関心してる間にもシンが話しかけてくる。


「おっさん、さらに10人くらい増援が来てるぞ。何者なんだ?盗賊にしては数が多いな。この辺にこれほど大規模な盗賊団ないはずだぞ」


「だとしたら軍とか?」


「何のために」


 何にせよ相手が多すぎる。

 できれば戦いたくない。出来なくても戦いたくない!


 いや、考えろ。

 敵の4人の場所は大体分かる。が、目視では確認しづらい上になかなか近寄ってこない。


 とりあえず、遠いやつはセリアに任せて、接近した奴を俺とシンで対処しよう。


「セリア、接近してくる相手は任せた。逃して近寄ってくる奴を俺とシンが叩く」


 そう言った瞬間、


 パキンッ


「きゃっ!」


「セリア?」


「ごめん、結果壊された。全体攻撃ができなくなったわ」


「そうか、まあ、よくやってくれた。接近して来た奴からのして行くか」


 そう言った瞬間4人の距離が一気に詰まる。

 

 はやい。


 目視できた瞬間、なんとか反射的に火炎球ファイアーボールを繰り出すが、あっさり躱される。


 シンが剣を抜き、斬りかかろうとすると相手の男が声を出す。


「まあ、待て」


「その手にのるかよ」


 構わず振り下ろす剣を、腰からダガーを抜き受け切る。


「交渉しに来たのだが」


「交渉だと?交渉しようって奴がこんな夜に大勢で来るのか?」


 俺も杖を構えるが、正直ここまで接近されるとやり辛い。


 他の仲間も集まり、相手が4人になる。

 最初の男以外、黒ずくめで顔を布のようなもので覆っている。

 

 「爆風ブラスト


 男が唱えた瞬間、シンは後ろに飛び跳ねかわす。


「お話できないですかね」

 

 静かに男は繰り返す。

 戦いが避けられるのならそれに越したことはない。もしかしたら、ウィンウィンな交渉なのかもしれない。

 

「一応伺ってみましょう。お話を」


 



 

 


 





 










 

 


 


 


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