第9話 おっさん、冒険者に目醒める。
宿屋に戻る頃にはさすがに周りは暗くなっていた。
あまりにも疲れていたので、ギルドへの報告は明日にすることにした。期限は3日間だったので、1日で終えられてよかった。
「あらお帰り、お疲れ様、早かったわね」
宿屋から溢れる光とジルさんがかけてくれる声で、泣きそうになる。
「はい、何とか無事帰りました」
「ただいま」
おいっ!
シンのまるで散歩から帰ってきたような態度に、思わず心の中で突っ込む。
俺は装備も体力もボロボロなのにシンはピンピンしている。
まじ、おっさんには厳しい世界だ。
いや、甘えてはいけない。冒険者というのは、ひいてはこの世界というのはそういう世界なのだろう。
ひとまず風呂に入る。その後にジルさんの料理をもらい、この日はエールもいただいた。
これで金がかからないなんて、宿屋で働いていてよかった。もっとも片付けは全て自分だが。
もっと飲みたかったが、あまりの睡魔に早く寝ることにした。
冒険者たるもの回復も重要な仕事だ。
きっと。
次の日目が覚めると、まだ薄暗かった。
こちらの世界に来ていつも起きている時間帯。シンは外で剣技のトレーニングをしていた。俺が教会堂へ行っている間トレーニングしていることは知っていたが、この時間帯でみるのは初めてだ。
ホワイトゴブリンは、剣技も魔法もできていた。もしあの日に出産したので有れば、その直後にあの戦いをしたのだ。
俺ももっと強くならなければ。強くなるほど冒険は楽になって楽しくなるはず。
だがとりあえず今日はもう少し寝よう。
俺は布団を被った。
次に目が覚めるとすでに昼近くだった。
ジルさんにパンとスープをいただいて、シンと一緒にギルドへ向かう。
休みを三日間もらったけど、やはり明日から働こう。
ギルドに入ると真っ直ぐ受付に向かう。
相変わらず受付の女性は麗しくて、セクシーだ。
生きて帰ってこれてよかった
本当に。
真っ先にクリア報告すると。
「お疲れ様でした。では、これから調査に入りますので、一日程度いただきます」
とねぎらいの言葉をもらうと共に調査の日程もきく。
クリア報告すると虚偽や失敗でないかの調査が入る。結果は主に完遂、未達、失敗がある。今回は調査期間約一日とあったので、明後日には結果が出ているだろうから、次の休みにでも確認しよう。
また、今回完遂できていればランクEのクエストクリアなので早速ランクEの冒険者になれる。
スピード出世だ。
FからEのスピード出世は珍しくはないらしいが。
ただシン曰く、あの強さのホワイトゴブリンいるだけでDランクは間違いなく、Cランクでもおかしくないそうだが、ホワイトゴブリンのことを言うわけにはいかない。
けど、すでにCランクと戦えるというのは自身になる。ほとんどシンまかせだったけど。
次の休暇のタイミングを考えながらクエストを見るために掲示板へ向かうと見知らぬ二組のパーティの他に見た顔があった。
セリアーナ王女だ。
格好は教会堂にいる時とは違い派手な装飾はなく、もう少し動きやすそうになっている。
パンツはガウチョパンツで、ノースリーブを着ている。その上にベストみたいな物を羽織っているが、そこには文字みたいのが書いてある。
きっと魔力が込められているのだろう。
胸にはいかついペンダントが付けられていて、頭は後ろでまとめている。
しばらく眺めていても、1人じっと机を見ながら微動だにしない。
なんだろうか、掲示板を見るでもなく、酒を飲むわけでもなく。
「あれ、セリアーナ姫だよな?」
シンに同意を求めると。
「ああ、そうだな」
興味なさそうに答える。
「何してんだあいつ」
「さあな、冒険者にでもなりたいんじゃないのか」
「いや、でも子供はパーティー作れなかったよな?」
セリアーナがいくつか知らんが、13歳までは同伴者が必要なはずだ。
どう見たって14歳以上には見えないし、同伴者も見えない。
俺を助けた時には業務の移動なので護衛がいたらしいのが、だとしたらパーティーもいないだろう。
「一人か」
「だろうな」
「そうなのか。教会堂で司祭やるくらいだから、力はあるだろうし、若さから将来性は申し分ないだろうから、すぐにパーティー見つかるんだろうな」
呑気な俺の発言にシンは鼻で笑う。
「いや、どうかな。力はもちろんあるさ。若いとはいえ、才能もあり、しっかり教育も受けていなければ、さすがに司祭にはなれない。けど、呪われた子供の王女を誰が預かるかな」
確かに他のパーティーが声をかけるわけでもない。完全にボッチ状態に見える。
考えてみれば、王女様となればわがままそうだし、洗礼の時も性格キツそうな感じだったな。
めぼしいクエスト見つけることもできずにそのままギルドを出ると、シンに剣術の相談をする。
「シン、俺に剣術教えてくれないか?」
「へぇ、自分の弱さが身にしみたと」
「まあな、せめてあのゴブリンくらいは強くならないと」
シンは楽しそうに笑う。
「いいぜ、けどまず体力つけないとな」
俺とシンは宿に戻ると休みだけど、夕飯の手伝いをして明日からの体力づくりの計画を立てる。
やはり、異世界といえば冒険者だろう。強くなって世界を周りたい。
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