第6話 おっさんゴブリン退治に行く①

 森の匂いも、たまに聞こえる動物の声も、

元の世界と対して変わらない。


 懐かしい感じだと思った。

 

 約一カ月以上前に初めて転移された時は、夜だったし、いきなりウォレストウルフに襲われたため、不気味さと恐怖の記憶しかなかったが、昼に入ると単純に森林浴をしているようだった。


 これほど心に余裕が持てるのは、今回は魔法も使えるし、アイテムも整えたし、何よりシンもいる。シンの索敵能力は素晴らしい。


 装備は、皮の軽鎧を自分に買っただけで、後はもともと持っていた杖とダガー、シンは鎧も着ずに父の形見だというショートソードを持っているだけだ。


 アイテムは、結界石、薬草や、毒消しなど。一通り揃えた。


 シンは探知能力があって、早めに敵の存在を教えてくれる。


「来るぞ、おっさん、右」


「おう!」


そう返して身構えると、右前方からザザザッと枝葉を踏む音が聞こえる。

 その音が素早く近づいてくる。

 その方向へと杖を構えると、ウォレストウルフが勢いよく顔を出す。


火炎球ファイアーボール


 杖の先からバスケットボール大の火の球がウォレストウルフにぶつかる。


 そのまま火炎球ファイアーボールを追撃させ致命傷を与える。


「おっさん、右からもう一匹」


「了解した」


 こっそり顔を出したフォレストウルフに火炎球ファイアーボールを喰らわせる。

 ひるんだウォレストウルフに、こちらももう一発たたみ込む。


 そこを一匹目に留めを刺したシンが二匹目にも留めをさす。


 残念ながら、今の自分の魔法では威力が小さく瞬殺できない。

 今後の課題だろう。

 ただ、魔法を自由に使うのは正直楽しい。


「おっさんそろそろ巣に着くから、この辺で一回休憩するか」


 そう言って、結界石を取り出した。


 土魔法で作った椅子に座りながら、ジルさんに作ってもらった弁当を食べる。

 ブラウンパンに、ベーコン、玉子、トマトがはさまったサンドイッチは絶品だ。

 この世界の料理が旨いのか、ジルさんが旨いのかわからないがありがたい。


 朝早くに起きて森まで歩いて一時間、森から入って、二時間くらいだろうか。

 出る時は薄暗かったが、もう完全に外は明るい。 

 体力は、筋肉なども多少は魔力で増強させているせいか、まったくもって問題ないが、その分魔力は減っているので、休憩はありがたい。


「おっさん、巣を見て見ないとなんともいえないけど、今までと同じ、おっさんが魔法で巣を攻撃して、俺が片していく感じで良いよな?」


「ああ。それでいこう」


最後の一切れを食べながら、少しばかり緊張する。

 来るまでに何匹かのゴブリンに出会うかと思っていたけど、出会ったのはフォレストウルフと猪くらいだったのが気になった。


「よし、行くかおっさん」


 シンの真剣な顔に気が引き締まる。

 巣の場所は、ギルドから地図をもらっているので、だいたいの場所はわかる。


 5分くらい何も起きなかった。

 不気味なほどに順調で、このままいけば、後10分も歩けば着くだろう。


 ぴきっ


「!?」

 一瞬ゴブリンの顔が浮かぶ


「うわっ」


「どうした?おっさん」


「いや、今なんか踏んだと思ったら一瞬ゴブリンの顔見たいのが」


「なんだって?」


 シンはそう言うと、こちらまで戻って足元を覗く。


「結界だ」


「えっ?」


「六匹向かってくるぞ、最初右から三つその後左から三つ。木の上だ」


 上を向くと最初の一匹が弓を構えようとしている。


火炎球ファイアーボール


 ゴブリンにあたり、木から落ちる。


 同時にシンも動く。


石針ストーンニードル!!」


 追いついた二匹に無数の先の尖った石のつぶてをお見舞いする。


 「おっさん、後ろ」


 シンの声に、振り向くと三匹のゴブリンが、すでに1メートルくらいのところにいる。


 小さなナイフを持って襲ってくる。


 一匹目の攻撃をギリギリかわすと、ゴッと皮の軽鎧とナイフがぶつかった音が聞こえローブが破ける。


 二匹目は、一匹目を交わし反応で突き上がった杖をそのまま前に突き出すと、運良くゴブリンの腹に突き当たる。


 三匹目の攻撃は。

 よく見えなかった。


 気付いたら右の太腿に、ナイフが刺さっていた。


「熱っ!」


怯んだ隙に一匹目が、鎧の隙間の脇腹にナイフを、突き刺す。


「おはっ」


 あまりの突然の痛さで、一瞬呼吸を忘れる。


爆風ブラスト!」


なんとか身体からゴブリンを離す


火炎球ファイアーボール


 バランスを崩したゴブリンに火炎球ファイアーボールをお見舞いする。

 

 フォレストウルフに比べ、ゴブリンは火炎球ファイアーボール一発で、ほとんど戦闘不能に、なってくれる。


 後一匹、


 そう思った瞬間、残りの一匹が両断され崩れ落ちた。


 シンの剣が鞘に戻る。


「大丈夫か?おっさん」


シンが駆け寄ってくる。


「まあ、なんとかね」


 そう言いながら自分にヒールをかけ始める。


 一人だったら自分にヒールなんてかけてる場合じゃない。危なかった。


「おっさんどうする?引き返すか?」


「いや、進もう。こいつら以上強いやつがうじゃうじゃいるとも思えない」


「まあ、おっさんがそう言うなら進もう。俺も今度は油断しないようにするよ」


油断、そうだゲームでさえゴブリンにやられることがあるのだ。最悪の状態は想定しておかなければ。


 ヒールで完治するのを待って俺とシンは巣へと向かうことにした。

 

 


 

 



 


 

 


 

 



 


 

 

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