第5話 おっさんギルドへ行く
宿屋で働き始めて一ヶ月。文字も読め、魔法もある程度覚えてくると、いよいよ魔法を大胆に使いたくなってきていた。
誰だって異世界で魔法使えたら、ぶちかましてみたいよね?
本でも沢山あれば知識も増やせるが、このガナリア村には図書館がない。小さい本屋はあるが、安くても銀貨三枚ほどだから、そう易々とは買えない。
本屋の親父は
いつかは街の本屋へ行ってみたいものだ。
宿屋の仕事は、ほとんどこなせるようになり、つい最近だが3日ほど留守を預かった。
その間ジルさんは何をしていたかというと、なんと冒険者としてギルドのクエストをクリアしていた。
「いやぁ、あんたのおかげで良い息抜きが出来るよ」
笑顔でそう言うジルさんは、さすがに高難易度のものは受けず、たまに来るルーキーとパーティー組んで易し目のクエストをこなしているらしい。
そもそもこの村にはそういう人が、結構いて、冒険者を半ば引退して店をやっている人が多い。
なんとも心強いものだ。
「ジルさん、俺もギルドのクエストやってもいいですかね」
夕飯の片付けをしながら、聞いてみる。
雇われの身なので一応社長オーナーの伺いをたてないとな。
「あらいいじゃない、でもあまり無理なクエストはしないで頂戴ね」
と笑顔で承知してくれた。本来なら、一緒に行ってレクチャーして欲しいところだが、そうすると店番がいなくなってしまう。
残念だ。
休みの日になって、いつもの魔法の練習を終えるとギルドへと向かう。今ではこの村のどこに何があるのかだいたい分かる。
先日しっかり村長のところにも挨拶へ行ってきた。
残念ながら美人な娘はいなかったが、物腰の柔らかい人でよかった。
都会からいきなり田舎暮らしというか、シーズンバイトみたいな感じで日々楽しいのは周りの人が温かいからだろう。
都会と違って空気もうまけりゃ飯も旨い。
仕事は、そこまで過酷でない世界があるなんて。
まあ、異世界なんだけど。
ギルドへは、もちろんシンも付いてきている。
こいつもパートナーとして働いて貰わなければな、あのウォレストウルフをなんとかしてくれたのだから、ある程度は強いのだろう。
ギルドの外観は、石造りになっている。中に入ると薄暗く若干湿気ているのは小さい村のギルドだからだろうか。
早速受付まで行くと綺麗でエロい格好の姉さんが対応する。
長く灰色の髪を下ろし、大きめな丸眼鏡をかけスタイルはモデルのようにスタイリッシュなのに、大きく胸が開いた服からはしっかりとたわわな谷間が見える。
素晴らしい。
異世界ありがとう。
「あの……」
いかんいかん、ついつい目が奪われて集中してしまった。
「すいません、冒険者登録したいのですが」
「はい、では息子さんこちらに、」
「いや、こいつもですが私も」
「は?」
驚くのも無理ない。
この歳になってから登録なんてほとんどありえない。
普通ならリタイアしてもおかしくない年齢だ。
ギルドは、10歳から登録可能だが、原則13歳までは15歳以上の成人とパーティーを組まなければならない。討伐クエストにおいても、成人同伴でなければならず、ソロで行くことは禁じられている。
と、ジルさんの所にあった『牛でもわかるギルド入門』に書いてあった。
とはいえ、全くいないわけではない。
一回登録抹消した人や、幼い頃から宮廷魔術師として過ごした人など。
とも書いてあった。
「失礼しました、ではこの水晶に手をかざして下さい」
名前を登録するとしっかり登録料を一人金貨一枚とられる。
よし、早速掲示板みよう。
「やっぱ、討伐系のクエストやりたいよな?」
思わず浮かれて気持ちでシンに語りかけると
「おっさんウォレストウルフで死にかけていたけど大丈夫か?」
「うっ、確かにあの時はそうだったが、今は違う、魔法も使えるようになった。そもそもお前本当に強いのか?」
考えてみればシンがどのくらい強いのか全然知らない。
なんだか急に心細くなっていく。
どちらにせよ掲示板を見て情報を集めよう。
周りを見てもほとんどパーティーはいない。
ギルドってもっと賑わっていると思ったが、牛乳屋のおっさんが掲示板を眺めているだけだった。
「どうも、こんにちは」
なんとなく声をかけてみる。コミュニケーションは重要だ。
「やあ、宿屋のムネハルさんか」
どうやら、明日が休みなので一日で出来るクエストを探してみたが、なかったらしい。
「いやぁ、魔王が倒されてからクエストが大分へったなぁ」
「え?魔王倒されたんですか?」
「なんだ、忘れちまったのかい?20年前に勇者様によって倒されただろ?」
それは素晴らしい!
じゃあこの世界は平和じゃないか。
魔物も弱くなっているだろう。
牛乳屋のおっちゃんは、
「今日は大人しく帰ることにするよ」
と言って帰って行った。
まさか魔王がいないとは。
じゃあ俺はなんで召喚されたんだ?
まあ、何にせよ掲示板だ。
今日登録したばかりのルーキーなので、パーティーランクは一番下のFランクだ。
本来なら、自分のパーティーランクまでしか受けられないのだが、時折特別措置があり、Fランクに限っては依頼が少ない時もあり、Eランクまで受けられる事がある。
そしてバッチし発見した不人気の討伐クエスト。
Eランククエスト
ゴブリンの巣を壊せ。
ガナリア東の森にあるゴブリンの巣を破壊しろ
報酬 金貨五枚
よし、今度の休みまで残っていたらこれにしよう。
「シン、これでいいか?」
「俺はなんでもいいよ」
シンのこの余裕面なら大丈夫だろう。
後は、準備の話をジルさんに聞こう。
ここまで来たらせっかくだから、ギルドのエールとやらを味わなければギルドに失礼だ。
「じゃあ、飲むか」
「やったー!」
素直に喜ぶシンを見ながら、やっぱり子供でもソロよりマシで、シンがいてよかったと思った。
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