第4話 おっさんひとまず食い繋ぐ

 宿屋へと戻るとジルさんが元気に迎えてくれた。


「おかえり、宗治むねはるさん、どうだい身体の調子」


 ジルさんの声はハキハキしていてよく通る。こんな時間まで元気だなんて、できた人だ。


「はい、大丈夫です」


 身体はお陰さまで絶好調だ。回復魔法がすごいのか、彼女がすごいのか。

 俺を助けたのは、シンがフォレストウルフ3匹を倒し、セリアーナが回復してくれたらしい。


「なんか元気ないわね。夕飯食べるわよね?ご飯でも食べて元気出しなさい」


 ジルさんの笑顔ですでにちょっと気持ちが軽くなる。考えてみれば、文字が読めないくらい大したことではない気がしてきた。


「ありがとうございます」


 営業スマイルで返すと、テーブルの方へと向かう。


「おっさんああいうのがタイプか?」


「お前、なんでも色恋にするなよな。子供じゃ……」


 そこまで言って相手が子供だということを思い出す。くそ、生意気なガキなんて嫌いだ。


 食堂まで行くと、木でできた厚めのテーブルに、丸太を切っただけのような椅子が四つ並べられている。

 

 椅子の間隔には結構余裕があるので、椅子さえあれば普通に六人席に出来るだろう。


 奥の席では四人パーティーが楽しそうに飲み食いしている声が聞こえる。

 男女二人ずつで、なんとも羨ましい。こちらはおっさんと子供。

 どうしてもこうなった?


まぁ、落ち込んでいてもしょうがない。とりあえずご飯を食べて元気を出そう。


 そんなことを考えながら目の前に座るシンを見てふと疑問に思う。


 ん?


 そういえば、シンはいつのまに金払ったんだ?

 もしかして、金貨一枚って、


「シン、お前金あるのか?」


「え、全然ないよ」


「へ?」


思わず間抜けな声が漏れる。


「宿代は?」


「おっさんが払ってくれるだろ?」


 さらりと怖いことを言ってのけるシン。やはりこいつの分も入っていたのか。とはいえ、確かに仲間とはぐれたのだから、お金の管理は任せていたのだろう。


 

 袋覗いて、残りの金貨を数えてみる。

 残りちょうど7枚。

 宿代が夕飯付きで銀貨3枚が二人で6枚。単純に10日で、金貨が残り1枚になる。

 

 とても不安だ。

 この世界のハローワークはどうなっているのだろうか。


 いや、それはギルドがになっているのかな。


 「お待たせ!ガナリア猪のシチューだよ」


 そうやって持ってきてくれたのは、見た目はほとんどビーフシチューに、バケットまでついている。

 ビーフの代わりに猪の肉なのかもしれない。


 本当に旨そうだ!


 とりあえずは飯だ!


「いただきます!」


 食べようとすると、シンが不思議そうにこちらをみている。


「いただきます?」


「まあ、俺の故郷の儀式みたいなもんだ」


「へえ、そうなんだ、じゃあ俺もいただきます!」


 そう言ってシンも楽しそうに真似る。

 

 子供は無邪気で良いな。


 いや、俺も折角異世界に来て、魔法が使えるようになったのだ。もっと楽しもう。


 まずはシチューを飲む。


「うまっ!」


まじか、予想していたよりうまい。猪特有の臭みみたいのもあるけれど、それがシチューの味付けとマッチしている。

 入っている芋や玉ねぎもそれぞれがしっかしとした甘味を出している。


 バケットは少し硬いが、シチューにつけて食べると丁度よい。


 確かに飯がうまいと元気になる。


 シンも何も言わずに食べ続ける。大人しく食べている分には可愛いもんだ。


 一通り食べ終える頃には、先にいたパーティーはすでに部屋に戻り、俺とシンとジルさん。


 ジルさんはよく働く。


「どうだった?料理は、元気出たかい?」


「はい、めちゃくちゃうまかったです」


「そいつはよかった」


「なんか元気なかったわね」


 ジルさんにそう言われて、相談に乗ってもらうことにした。

 主に金のことだ。

 金は重要だ。


「なんだそんなことかい、丁度ギルド依頼しようと思っていたんだ」


 どうやら手伝ってくれていた娘が冒険者になるための訓練校へ行ってしまったため、人を雇おうとしていたらしい。


 俺はしばらくの間この宿で働くことにした。


「お前はどうするんだ?」


 シンに確認する。


「俺も手伝うよ。面白そうだし」


 そうか、正直言って心強い。この世界のことを色々覚あるためには、シンの存在はありがたい。


 そのままジルさんに仕事の話を聞く。

 

 仕事は、ベッドメイキング、店番、掃除、料理の配膳、お使い、他にもたまのお手伝い。


 料理はジルさんがまとめて作るために、ほとんどやることはないが、ドリンクは注いで運ぶ。


 シンの仕事は、店番以外は同じような物だ。


 休みはほとんどないが客がいない時は休みになることがある。


 一見ブラックだが、ベッドメイクも大雑把で大丈夫だし、店番は、客が来たときに対応するだけなのであまりやることはないらしい。


 夕飯の時だけちょっと忙しいが、二人いれば全然楽だ。


 とりあえず文字を覚えたり呪文を覚えたりする時間はありそう。


 部屋は、一階の隅にある元々物置のような部屋をシンと二人で使わせてもらうことになった。

  

 そして二週間もすると仕事にも慣れ、文字も大体覚えた。言葉はわかるので、その気になれば文字は、そこまで難しくなかった。


 一月経つと、ほとんど文字は分かるようになった。魔法も初級、下級魔法は無詠唱で使えるようになった。

 正直魔法使うの楽しくて魔力はどんどんあがる。


 六つある教会堂の本はほとんど読んだので、宿屋の本を読ませてもらったりした。


 娘が冒険者を目指すだけあって宿屋の本は結構置いてあって、魔法の本もいくつかあったので助かった。


 一か月経ってそろそろ冒険がしたくなってきた。




 


 


 

 





 

 




 

 


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