第2話 おっさん仲間を見つける

 目が醒めると、ベッドの上だった。

 木の板で作られた天井が遠くに感じる。


 瞬間襲われたときのことがフラッシュバックする。


「うわあああああああっ!!!」


肩を噛まれ、ずるずると運ばれる衣擦れの音、野生動物独特のにおい、そしてためらいもなく臓器を喰らおうと腹を狙ってくる狼の頭。そしてブヅりと鈍い音とわずかに遅れてやってきた激痛が。


「ん?」


 痛くない?

 

 掛け布団をめくり、噛まれた場所を見ても傷口はない。あまりの痛さに気を失ったはずなのに。

 よく見ればほんの少しだけ噛まれた後みたいのが残っているが、痛さはない。

 夢だったのか?

 

「起きたか?おっさん」


 声がする方を見ると少年がいる。


 小学生くらいだろうか。

 髪は短いが、目は大きく全体的にバランスが整っている。所謂イケメン、いや、イケ少年だ。


「ジルおばさんに言ってくる」


少年はそう言ってパタパタと音をたてて階段を降りていく。


 階下で少年がおばさんを呼ぶ声が聞こえると、バタバタと今度は二人分の足音が駆け上ってくるのが聞こえた。


「あら、起きたのね?あんたもう少しで、ウォレストウルフのエサになるところだったようね」

 

 先ほどの少年と一緒にふくよかなおばさんがやってきていた。

 おそらく俺より少し若いだろう。なかなかおっとりとしていて優しそうだ。


「ありがとうございます。助けていただいて」


頭を下げる俺に


「いや、あんたを助けたのは、この子とたまたま通りかかったセリアーナ様一行だよ」


「セリアーナ様?」


「なんだね、あんたまさかセリアーナ様を知らないのかい?どこの田舎から来たんだい。キルヒス教国のお姫様よ」


「まじか!」


しまった、ついついお姫様にテンション上がって素がストレートに出てしまった。


「忌み嫌われの姫セリアーナ」


 少年が呟くとジルさんは少し困った顔をする。


「嫌われているんですか?」


俺の質問に少年が答える。


「キルヒス教国第三妃ビルアナの第四子セリアーナ。産後直後にビルアナが病死。第一妃サリアナ、その息子サビン皇子、そして、セリアーナの上の子達三人も次々と亡くなり、セリアーナは呪い子とされた」


「詳しいのね、シン君は」


 こいつの名前は、シンというのか。

 あれ?

 シン君は?

 さりげなく俺ディスられたか?まあ、いい。


「それで呪い子って?」


 シンは一瞥いちべつすると溜息をつく。肩をあげ、両手をひろげ。

 

 こいつ。


「呪い子は、名の通り呪われて生まれた子。最初キルヒス国はそれを隠していたが、あまりにも死に過ぎて隠しきれず、セリアーナは地方へ飛ばされることになった」


「まあ、どちらにせよ肩身が狭くて本国では暮らせないわね。かわいそうに」


 ジルさんが同情すると、そろそろ仕事に戻ると言いながら階段を降りていく。


 確かに可愛そうだな。

 しかしそのおかげで俺は助かったのか、なんともありがたい。神の思し召しか。

 よし、礼を言わなくては。

 お姫様に会いたいだけでは決してない。

 だってまだ見てないんだもん。


「よし、礼を言いに行こう」


 やろうと決めたら素早くだ。俺は身支度をすると階段を降り、そのまま外に出ようとする。


「ちょちょちょっと待ちなさい、アンタ。お代払って行きなさいよ」


 ジルさんが呼び止める。


 そうか、宿だったのか。お金って、あの金貨でいいんだよな。


「いくらですか?」


「一泊朝食付きで銀貨二枚よ。さらに銀貨一枚で夕食が出せるわ。原則前払いだけどアンタ気絶していたから」


 なるほど今日も泊まるだろうから、今日の分も払っておくか。


「今日も泊まらせてもらいたいので、その分も入れるといくらになりますかね。夕飯付きで」


「ちょっとおまけして金貨一枚でいいわよ」


結構気を失っていたんだな。そう思いながら金貨を一枚取り出して渡す。


「まいどあり、日が暮れるまでに帰ってこないと夕飯は残り物になるから気をつけて」


「わかりました。では、後ほど」


「お待ちしてるわ」


 ジルさんとのやりとりを終え、外に出ると青い空が広がっていた。

 建物は軒並み低く、所々に風車や動物を飼っているところ、畑があるところもある。

 のどかな風景だ。

 社畜時代の心が洗われる。

 いや、それよりも姫だ。

 本来の目的を忘れてはならない。


 で、どこに向かえばいいんだ?


 そうか、とりあえず情報収集だ。

 RPGの基本は、村人の情報収集だ。今のゲームよくわからんが、おっさんの世代はそうだったし、現実でも情報は重要だ。

 今はどれが現実かよくわからんが。


「おっさん教会堂は、この道をとりあえず真っ直ぐだぜ」


「そうか、ありがとう」


進もうとしたが、声の主が気になって振り向くとそこにはシンがいた。


「お前なにしてんだ?」


「なにしてんだって、仲間だろ俺たち」


 あれ?

 いつの間にそんなイベントふんだんだ?

 というか、こいつ両親とかどうしたんだ?


「お前、両親は?」


「去年死んだ」


「そうか、なんかすまない」


いかん、この世界は魔物とかいるんだ。きっと全然そんなこと多いのだろう。


「いままで、どうやって生活してたんだ?」


「冒険者だよ、俺結構強いんだぜ。ここに来るとき仲間とは別れちまったけど」


 そうか、こいつ一人になって寂しいのかもしれない。

 

 しかし子供で冒険者とは、だいぶ強いのかもしれない。


 ちょっと生意気そうだが。一人より二人の方が楽しいだろうし。


「よし、じゃあとりあえずお姫様に会いにいくか」


「そうだな、おっさん」


この世界のことをそれとなく聞きながら教会堂へ向かおう

 


 


 







 




 


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