第1話 おっさんどうやら異世界にきて早速ピンチ

 腕がちくちくする感覚で目を覚ます。


 どうやら気を失っていたらしい。


 ちくちくとした感覚の正体は雑草だった。雑草が風に揺れ、その葉っぱの先が時折腕に刺さるようにあたっていた。


 身体を起こして周りを見ると、うっそうとした木々が並び、どこか遠くのほうから梟の鳴き声が聞こえる。

 自分の寝ていたところは林道のようだ。


 月夜はその道を照らしているが奥は暗闇でつぶされている。


 とりあえずは現状確認だ。


 そう思いながら少しでも情報を集めようとまず身の周りを見る。


 自分の着ているものが、なぜかローブのようなもので洋服ではない。

 腰の辺りには革のベルトがしてありそこには小ぶりのナイフとそれを収める鞘がある。


 そのほかに小さな袋もベルトについている。合計三つある小さな袋は紐でとじられていた。


 一つ目の袋を覗くと、中には干し肉とドライフルーツのようなものがいくつか入っている。おそらく食料で間違いないだろう。

 周りを見て、この森をいつ抜け出せるのか分からないことを考えると大事にしなければならない。


 二つ目の袋を覗いてみると、そこには木の実のようなものがいくつか入っている。

 これも食料だろうか、しかしなぜ二つの袋に別けているのだろうか、もしかしたら火を通すとか水に浸すとかの調理が必要なのかもしれない。


 そして三つ目を覗く。


「おお!金貨だ!!!!」


 ついつい声をあげてしまったが、中には十枚ほどの金貨が入っている。

 いや、しかしこれは本物だろうか、一枚を取り出し近くに寄せてみてみると、建物のようなものが彫られていて美しい。念のため軽くかじってみるが、どうやらメッキではないようでたぶん本物だろう。

 ここまで考えてひとつの考えが。


「もしかして俺、異世界に来たのかもしれない」


 一人つぶやき、少しだけ興奮する。

 今まで読んだ異世界の話なら、女神が出てきたり、神様から特別な力をもらったりとかだったが、そんな力を得ているような気がしないのはきっと気のせいだろう。

 もしかしたら魔法も使えるかもしれない。


 周りをもう少しよく見てみると、木製の杖らしきものがる。その杖を手に取り、ごくりと唾を飲み込む。


 苦節40年、ついに魔法を使える時が、そのときが来たのかもしれない。


 小さいころは信じていればいつかは使えるようになると思っていた。

 大人になるにつれほんど諦めていたけれど、本当は少し期待していた。


 今ならきっとできるだろう。ここはファンタジーな異世界なのだから!


 そう思いながらおもむろに杖を目の前にかざす。

 最初はやはり炎の魔法だろう。

 精神を杖に集中して炎の玉をイメージする。そしてそのまま木にぶつけるイメージを……


 が、何もおきない。


 相変わらずどこかで梟が鳴き、月明かりが道を照らす。

 やり方が違うのだろうか。


「いや、こんな格好だから魔法使いとは限らない。ものすごい剣の使い手とか、力持ちなのかもしれん」


 そう再び独り言を呟くと、腰のナイフを振り回してみた。が、いまいちぴんと来ない。

 近くの大きな石を持ち上げようとしてみる。

 が、その瞬間腰に違和感を感じる。まずい!!

 すぐに力を抜き、なんとかぎっくり腰になるのを避ける。

 額から流れる冷たい汗がつるりと頬を通り過ぎる。

 まさかだが、何のチート力もなく、おっさんのままこんな所にこんな姿でいるというのだろうか。


「もしかして、いきなりピンチなんじゃないかしら」


 くそっ、いきなりこんな所に放置プレイとは趣味が悪すぎる。

 とにかくこの森を脱出しなければ!

そう心の中で叫んだ瞬間、


ザザッ、


茂みの方から葉が激しく揺れふ音がした。

宗治むねはるの額に再び冷たい汗が流れる。

 腰ベルトからナイフを取り出すと、揺れた茂みに対して構える。


 正直ここでモンスターに襲われて勝てる気はしない。

 何とかモンスターでないことを祈りながら、手に取るナイフに力を込める。


ザッ!!!


その音がした瞬間。黒い塊が茂みかこちらに飛び出てこんで来た。


すんでの所なんとか体制を崩しながらもかわす。


 振り返ると獣がこちらをみている。

 息は荒く、よだれを垂らしている。


 狼だろうか。


 似たような身体だが、その大きさは一回りでかい。

 大型狼とでもいうべきか。

 毛の色もよく見えないが、黒っぽく見える。

 いや、そんなことはどうでもいい。


 とにかくこの場を切り抜けなければらならない!

大型狼が、一瞬身体を沈めたかと思うと勢いよくこちら向かってくる。


 大きさのせいか、確かにスピードはあるが、思ったほどでもない。

 飛び込んできた所を出来るだけ体勢をかがめると、狼の首めがけてナイフを押し当てる。

 ずぶり、っと首に入るとそのまま腹の方へとナイフを一閃する。


 狼は着地したかと思うとそのまま崩れ落ちて、多くの血を流し、暫く呼吸していたがそのまま動かなくなった。


「なんとか倒せたか」


 ホッと息をつくと、疲れがどっと出てくる。

 腰を降ろそうとした瞬間再び茂みから狼が現れる。


「二頭め?」


 そう声が漏らしたかと思うと右肩に激しい痛みが走り、思わずナイフを落とす。

 力まかせに倒されると、そのまま茂みの中にずるずると運ばれる。


 中では更に二頭の狼がいた。


 合計三頭。


 これは死んだかもしれん。

 どうせ死ぬなら苦しくないようにして欲しい。

 そう願った瞬間二頭の狼はお腹めがけて牙を立てた。


 激しい痛みが全身を襲い、思わず狼を蹴飛ばすが、狼は一瞬怯んだがそのまま再び内臓めがけて襲ってくる。


「うぎゃあああああー!!!」


叫びながら意識を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る