第8話 だからそういうことかいっ!承
そうなのだ。僕は僕がここで呑まされて潰される前に、ここで是非にでもそれを聞いておきたかった。
いやこの性格、運送会社の先輩にも良く言われたもんだ。何でお前、いちいちそんなに理由聞きたがるの、って。
だけど仕方ないじゃないか。疑問を疑問で放っておくのは、僕の性分に合わない。
ケツの穴が小さい奴、とか小さいことにぐちぐちこだわる奴と言いたければ言えばいい。今聞いておかないと、僕の頭からそれがしばらくこびりついて困るのだ。
そしてそんな僕に対する皆の反応と来たら。
「んーそぉ言えばそうよねえ」
「別にどっちでも良くねえか?」
「…済んだことだ…」
「皆無事だったんだし」
「…駄目駄目」
低い声に、皆の声がぴたりと止まる。何と、説明は面倒だ、と言いたげな皆を止めたのは隊長だった。
「こいつ、しつこいんだよ、けっこぉ。言わないと祟るぜ…」
もしかして、このひとの中で僕は既に、「しつこい人」というレッテルが貼られているのだろうか。そう言えば、サンドイッチの取り合いの時に、そう口にしていたな。
「んじゃまあ、皆さん、この探求心旺盛なムラサキ君に、わかりやすーく説明してやって下さいな」
膝の上で猫の様に気ままにじゃれつく隊長の髪を撫でつつ、船長はにこやかな笑みと穏やかな声で皆に「お願い」した。仕方ねーなあ、と皆の声が響いた。
「順番的に言えば儂らと船長だが、それはまあいいな」
プロフェッサーは言う。無論… 船長の行動に根本的に疑問がある様な気はするが!
「ナヴィは?」
「はーい。ナヴィはかべにさわってたら、はいっちゃいましたー」
「え? …だからエレベーターで降りてからのことだよ?」
「だーかーらー、あちこちのにおいかいでたらなんかかんじたからかべさわってて~そしたらあながひらいて~でもおうじのこえでよばれたの。そしたらあなにはいっちゃったの。ばたばたやってもだめでー」
それだけ言うと、この子供はぱくぱくと食事の続き(…無論酒ではなく、呑んでいるのはジュースだ)を始めた。それ以上言う気も無いらしい。
…まあ察する所によると、例の隠し扉を開けてしまったら、先に居た奴(…って船長じゃないのか?)に連れ込まれたってこと… だと思うけど…
「はい、納得しましたか?」
「…することに、します」
「次はアタシ?」
フランドはグラスを傾けた。
「別にアタシはそんなねえ。ただキャビアにはやっぱりシャンパンが無くちゃダメよね、と思ったから」
それで酒蔵に行ったのか、とムラサキは納得した。
「まあそれなら一発だな」
ボマーも大きくうなづく。
「ん?」
そう言えば、あの時、エレベーターで。
「アリさん確か、エレベーターで何か言ってませんでした?」
「お前、よくそんなこと、いちいち覚えてるなー」
細けぇ、とボマーは眉をきゅっと寄せた。
「ああ、やっぱりアレが必要、と言っていたから…」
アリは大きめのウイスキーの樽の上に座り、スピリッツのアラックをオン・ザ・ロックにして、静かに飲んでいた。
「だってさあ、シャンパンはさすがにおかみさん、あんまり出してくれないじゃない…」
「そりゃあそうさ、フラン。いや、値段のことを言ってるんじゃないよ。ああいうものは、出すのにしかるべき時ってのがあるんだ。珍味でも美味でも毎日食べてりゃそうじゃなくなるじゃないか」
「はいはい判りました。でもいいキャビアにいいシャンパンってのは合ってるでしょ?」
そりゃあねえ、とおかみさんも大きくうなづく。
「…アリさんは…」
「いや、だから単にフランドの言葉から推理しただけだ」
彼は端的に言う。フランドの「アレ」イコール「シャンパン」。と言うことは、彼女の行き先は酒蔵…見事な推理だ。
「フランド、ホントお前いい性格だよなー、あの時点でシャンパン探しに行こうなんてよ」
フランドは何も言わず、肩をすくめる。
「ま、まあまあ。…それで王子とミハイルさんは…?」
あの時、彼らは一枚の紙だけ残し… 結局消えてしまったはずだ。
「ああ…、僕等、唐突に消えちゃってごめんね、ムラサキ君、心配させてしまった?」
ふう、と彼は言うと、傍らのソーサーにティーカップを戻した。ち… んと良い陶磁器の、軽い、いい音が響く…
ちょっと待て。紅茶! この場で紅茶かい! いや、王子だのミハイルには実に似合うアイテムではあるのだけど!
木製のボトルワインケースの上に、銀のトレイが置かれている。その上におかみさん特製の綿入れのお茶帽子を乗せたポット、そしてその傍らには上品な色合いのカップ。
…何か良く見ると、その横にはスコーンだのショートブレッドだのという毎日のお茶の時間に良く見るものまで置かれている。紅茶はこの香りからして、アールグレイだろう。もともと僕は紅茶には詳しくは無いけれど、酒の匂いにも負けない香りなど、それ以外知らない。
だけど… それって全然この場に合ってない…
「…実はね、ムラサキ君… ぼくはあの時、どうしてもお茶の時間が欲しくて… 抜け出させてもらったんだ…」
「は?」
「王子はでりけぇとなのよねー」
ふふ、と笑いながら、フランドは背後から王子の首を抱きかかえた。うわ、とばかりに王子の顔が赤らむ。何せあの胸が… 胸が… ダイレクトに…
「そ。こいつ、ストレスにすっげー弱いんだよ。ったくお坊ちゃんは~」
ボマーも口をはさむ。
「そうなのじゃ。まあそのあたりはドクターの方が詳しいのじゃが、そう言えば、『ティータイムで安らぎを』症候群だとか彼女は言っておったなあ」
「は、はあ…」
そう言えば以前、ミハイルがロック音楽を聴くと我を忘れるのに対し、「同じ阿呆なら踊らにゃ損々」症候群と名付けたということを… 聞いている。
「ま、じゃから、そのストレスに対しては、スピードのスリルで高揚させるか、安らぎのひとときをもたらす紅茶をたしなむのが、こいつには、何よりの薬なんじゃ。じゃが、毎度毎度スピードで発散されては、儂らの命も持たない」
「…だから普段は昼時間の十時と三時、夜時間の九時にティータイムをとっているんだ…」
「と言うと、あれは単なるこの船の習慣、というだけではなかったんですね…」
うん、と王子はうなづいた。そりゃあ、パイロットの精神状態は、船には大切だから… なあ…
「でもこの騒ぎが起こっちゃって、何か時間通りにそれもできなくて、その上、皆テンション上がってたでしょ? で、それがうつったのか何なのか、とうとうぼくも気持ち悪くなってしまって…」
「そ、それは…」
お気の毒に、と言うべきなんだろうか。
「で、でもどうしてミハイルさんまで」
「みの字はよ、その紅茶用のブランデーを取りに来た時に、こいつにやられたんだよ」
そう言ってボマーは、相変わらず王子の背に胸を押しつけているフランドを指す。王子はくにゃん、と真っ赤になったまま何も言えずにいた。
「ま、おめぇと同じだ。で、王子はなかなか戻って来ないみの字を探してゲームオーバー」
「はあ。でも王子は攻撃は…」
僕は冷湿布をしている瞼に軽く手を触れた。
「される訳なかろ」
確かに。可愛い可愛い、とばかりに胸をすりつけている様子を見れば。
「…ま、おかげで奴も、しこたま呑んでこの通りだがな」
「でも半分以上は、皆さんがぼくに勧めたお酒じゃないですか」
「断らないミハイルも悪いのよぉ? そのあたりのあしらい方、船長から教わった方がいいんじゃない?」
フランドはそう言いながら、静かな一角で、死んだ様に爆睡しているミハイルをムチで指した。
「ああでもな、フランド、ミハエルもお前にやられたことでずいぶん落ち込んでいたから、ちょうど良いじゃろ」
はん、とプロフェッサーの言葉に、彼女は肩をすくめ、王子から手を離した。
「しかしそう言うボマー君、君もゴールに辿り着かずのゲームオーバーだったじゃないですか? ふっふっふ、いけませんねえ、自分の事を棚にあげちゃ」
「いんや、実力だね!」
そう言って、ボマーは胸を張り、自分の頭を指した。
「頭脳プレイと言って欲しいぜ。あんなのにビビった、お前らの負けだ」
「な、何やったんですか、ボマーさんっ」
僕は思わず叫んだ。ここのクルーを脅すなんてことが、果たしてできたのか? するとフランドが顔を思い切りしかめた。
「あー? こいつねえ、爆弾で皆殺しするぞって脅したのよ。まぁったく、スマートさはゼロね。ゼ・ロ!! サイアク!」
「何をぉ! 気体爆弾は、エリア限定破壊の炎の芸術品だぜ! お前そのスマァトさと美しさを知らねえな」
何よぉ! と二人はにらみ合う。ボマーの手の、ライム入りチェアズビールのボトルから、泡が飛んだ。座っていたビールのケースががたん、と大きく鳴る。そしてあくまで自分では無く、「爆弾の」弁護を延々と始めた。
しかしそれじゃあ答えにならない。僕は爆弾の話ではなく…
「ああ? だからよ、ムラサキ、俺は武器庫に行った後、腹が減っては戦ができねーから、も一度キッチンへ行ったんだよ」
「はあ。そーいえば籠城戦が何とか、と言ってましたね」
「そしたらよ、酒蔵から音がするから」
「ちょっと待って下さいよ!」
「何だよ」
「どうしてキッチンで酒蔵の音が聞こえるんですか!」
「あれ? お前に言ってなかったっけ」
言ってないわい、とプロフェッサーは呆れた様にちら、とボマーの方を見る。
「だから俺の耳って、改造されてっからさー」
「は?」
「あははははは、そーじゃなくてどーやってこの男、爆弾魔やってられると思うのよ」
フランドも陽気に笑う。
「つまりじゃな」
プロフェッサーが説明する。
「こいつ昔、爆発に巻き込まれた時に耳がやられてしもうての。治療ついでに、聴力をパワー設定できるようにしたんじゃ。ま、時々は役に立っているようじゃがな。ま、キッチンではピーピング・モードにしてあったんじゃろ」
「覗き聞きモード?」
僕は首を傾げた。
「聴力アップさせてんだよ。だから警戒モードとも言うんだけどよ…だけどムラサキ、言っとくけどなあ、俺だって、そんなモード、必要な時以外滅多に使わないぜえ! 俺だって一応モラルってものがあるからなあ」
ふん、とボマーは鼻息を荒くする。
「あんたの場合、単に自分の威勢良い声と行動のうるささで、自分自身が参ってしまうからでしょ。それに『聞か猿モード』もあるでしょ」
そう言ってフランドはあははは、と笑った。
「『お休みモード』だ! って何度も言っただろ!」
「的確に表現しただけじゃない。何が悪いのよ」
「あ~つまり、ダフモード…音を遮断できるモードにもなる、ということじゃ」
プロフェッサーは仕方なさそうに補足する。
「あ、爆発の時には便利ですね」
「寝る時もな」
「面倒な会議の時もでしょ」
このやろ、と掴みかかろうとしたボマーに何よ、とフランドもとっさに戦闘態勢を取った。
やめて下さいよ~と王子はカップを手に、涙目になる。
「…あ、あの… それでどうやって脅したんですか?」
「あ? 言ってなかったか?」
「…言ってません」
そーいえばそうだったなあ、と彼はあごに手を指をかけて、天井を見る。
「だからよ、酒蔵にもうこいつら勢揃いしてるの判ってたからさ、武器庫から気体爆弾持ち出して脅したんだわ」
「嫌がらせよ、嫌がらせ」
フランドはきーっ、とボマーを指さす。
「いや、彼のことです。密閉空間での威力を試したかったのでは?」
一方船長は、恐ろしいことをさらりと言う。
「…のぉ船長。こいつには、爆発物のシュミレーションソフトを作ってやった方が良いかもしれんのう… いちいち爆発させとるようじゃ、開発にセーブがかかるし、…何より物騒じゃ」
「ああ、それはいいですね、プロフェッサー。ぜひ頼みます」
「おいちょっと待てよ」
ボマーは二人の会話に割って入る。どうやらその提案には乗り気でないらしい。
「爆弾作りってのは職人技なんだぜ? こいつぉ経験がもの言う訳で…」
はいそこに座って、とボマーはプロフェッサーと膝詰め談判になる。…もしかして、彼、説教癖でもあるのだろうか?
そしてその間にも、僕のコップにはひっきり無しにビールだのカクテルだのが次々に注がれていた。だけど僕は酒豪では無いので、呑みながらもつまみを必ず口にし、コップを空にしないよう、警戒を怠らずにいた。それにしても美味いつまみだ。
「あの~ おかみさん、いつこれ作ったんですか?」
「作ったも何も、ムラサキ、よく見てみ。そのへんの作り置きを切って重ねただけだよ」
良く見ると、確かに火を通したものは無い。
チーズだのピクルスだの薄いパンだのソーセージだの生ハムだのフルーツだのナッツ類だの、確かにそのまま持って来て、簡単に形を整えて盛り合わせれば済むものばかりだ。
それでも充分以上においしい、というあたりが、やはり彼女のすごさだろう。
そのおかみさんも、一応呑んでいるらしいのだが、顔に全く出ていない。強いのか、職業意識なのか、そのあたりはムラサキにも良くは判らなかった。
と、ふと王子が心配げな表情で、隊長のほうを向いた。
「…隊長、何か食べましたか?」
どうやらずっと気にしていたらしい。隊長は口に運んだグラスを止め、考えるように間をおいた。
「…食べてない」
そう言えば今さっき思い出した、という口調だった。さすがに僕もそれには呆れた。朝からこのひと、何も食っていないじゃないか! 結局。
「何だい隊長! 全くこの子は… ちゃんと食べなきゃだめだって、いつも言ってるじゃないか!」
おかみさんは、隊長の言葉を聞き止めると、大きく腕を広げた。そして皿にどかどかと食べ物を乗せ、隊長の目の前に突きつける。突きつけられた方は、腰に手を当て、恐い顔でじっと睨み付けるおかみさんを横目に見る。
数秒、無言の視線の戦いが繰り広げられる。だが勝敗は明らかだった。観念したのか、小さく唸りながらも、少しだけだが、隊長は皿の上のものをフォークに刺し、口に入れた。
するとおかみさんのぽっちゃりした顔が、満面の笑顔になる。それを見て、王子もクスクスと笑った。
「…ああ良かった」
そんなつぶやきが、僕の耳に飛び込んで来た。ほんっとうに王子って、いいひとなんだ…
だが、王子とは対極の地平に属するひとが、僕の全身を引きつらせた。
「ヘルさん結局、飲み過ぎで食欲なかったんでしょ」
無言で隊長は、ちびちびとフォークに刺したものをかじっている。
「いくらアルコールにカロリーはあると言っても、あくまであれはエネルギーに変わるだけですからねえ… これ以上アナタの脂肪が無くなってしまうと、抱き心地が悪くなってしまう」
ぶっ、と思わず僕は吹き出した。
「…オレゃ絶対に抱きたかねえがよ、隊長、もちっと肉つけろよ。あんた華奢過ぎて、攻撃したくても、こっちが遠慮しちまうじゃねえか。だいたい中身が極悪なくせに卑怯だぜ」
ボマーも言う。
「あら、いいわね。隊長の細っいウエスト見ると、腹立つのよ。どんどんお食べなさーい、隊長! さーあこれも召し上がれ」
フランドは笑顔で、隊長の前にカルパッチョの皿を置いた。
すると隊長は、ゆっくり口に運んでいたフォークをくわえ、フランドを上目遣いでしばし見つめた。その視線は彼女の顔から、次第にウエストまでつつ、と下がって来る。
「な、何よ。何か言いたい?」
彼女は一瞬ひるむ。さあ次に何の言葉が…
「フラン、最近、太ったんじゃない?」
そしてとどめの様に、隊長はその端正な顔で、ふっと笑った。
周囲の空気が一瞬凍る。
「なにっ!! ひどっ!! ムカツクーっ!!」
次の瞬間、フランドの顔と声が沸騰した。一同から笑いも巻き起こる。恐ろしいことに、確かにフランドより隊長の方がウエストが細いのだ。以前、何気なくドクターが口にしたから間違いない。
「まあまあ、そうフランドも怒らないで」
「何よ船長。アンタは隊長一筋なんでしょ! そのガリガリを楽しんで抱いてなさい」
「いーえ、フランドは充分魅惑的なプロポーションですよ。よろしければ一度お相手して頂きたいくらいです」
さすがのフランドも呆れ顔になる。
「…おいこれ、ジョークだと思うか?」
思わずボマーに僕は問いかけられる。僕は何も言えずに首を振るだけだった。
「…船長… あんたって、ホント色欲魔人だわね」
「別にそのつもりは無いですか?」
「いーえ。女が相手だったら、子種は星の数って感じじゃないの?」
「そんなそんな。とてもとても」
疑惑の目が一点に注がれる。
「実際、いつもヘルさんに精神的に襲われてるのは、私の方ですよ。ですので」
ぽんぽん、と膝の上の猫を軽く叩き、船長はにっこりと笑う。
「それを言うならヘルさんに言ってやって下さい。ははは」
すると叩かれた方は、ばーか、と何やら楽しそうにつぶやいた。
そして数秒の沈黙。
「なんじゃそりゃあ!」
「嘘ばっかーっ!!」
「身も心も顔も全部船長はスケベじゃねーかっ!」
その場に一斉にやじが上がった。僕も内心毒づく。ま、いつもの嘘だろ。まったく、この人は…
そう思って、自分を納得させようと思ったのだ。隣の子供がごにょごにょ言うまでは。
…え?
ヤジの嵐に何となくかき消されてしまったが、生ハムメロンを口にしていたナヴィは、確かにこう言っていた。
「…せんちょうは、うそいってないよお~」
この子供の言葉には、基本的に嘘が無い。となると。
そういえば。先程の船長の言葉がムラサキの脳裏によぎる。
―――ヘルさんにも大人しくしていてもらおうと、ワタシもがんばったんですがねー…力不足でした―――
力不足って… 力不足って…
ただでさえ「可愛い女の子と幸せな家庭」を夢見ている僕には、不可解な関係の二人なのに。…まさか… ねえ… 思わず足から力が抜けるのを感じた。くらくら、と僕は王子の近くの床にへたり込む。
「…ど、どうしたの、ムラサキ君」
「王子すみません、お茶いっぱい、僕にもいただけますか…?」
うんいいけど、とお茶帽子を取り、ここでいい? と王子は僕のコップにまだ温みの残るお茶を入れた。
視界には、否応無しに一見穏やかな笑いの船長と、そこに猫の様にただ居るだけ、の隊長が入ってくる。隊長はスローリーな動きで、さいころステーキをぱくりと口に入れる。
…彼にこれ以上スタミナを付けさせて、いいのだろうか?
「落ち着いた? ムラサキ君」
王子が心配そうな顔をして、のぞきこんでくる。
「あ、大丈夫です」
「なら良かった」
王子は笑う。ああ何って安らぐ笑顔なんだろう。…だけど。僕はふと湧いていた疑問を思い出した。
どうして僕は、あの暗闇の中で、隊長と王子が似てるなんて思ってしまったのだろう?
隊長は… と言えば、何って言うか… 青く輝く氷のような雰囲気だし、王子はもう、穏やかな陽の光のよう。どう見ても、この二人に共通点があるとは、思えないのに…
なのに。
膝を抱えて考え込む。きっと僕の性格上、しばらくこの命題は頭の中に巣くって離れないだろう。―――解けるまで。
けどそれがいつになるのか、…僕にも見当がつかなかった。
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