第9話 だからそういうことかいっ!転

「ああ、そう言えばそろそろムラサキ君、君は引き上げて下さいな」


 しばらくして、器に盛られた抹茶白玉だんごをもぐもぐと口にしながら、船長は言った。

 いい加減酒のつまみも、辛いものばかりでなく、こんなお菓子まで出てきている。ナヴィと王子は嬉しがっているが、フランドは先刻ウエストのことを指摘されたので、何となく手が出しにくくて悔しがっている。

 そしてボマーは。


「おい船長、何だよそれ! 今からがこいつ呑ませ時だって言うのにっ!」

「いや、今日彼、『日誌』当番なんですよ」


 ちぇ、と彼は舌打ちをする。僕は内心ほっとした。…今だって結構呑んでいると思うのにこれ以上呑ませられたらどうなるって言うんだ?

 立ち上がると、おかみさんが声を掛けてくた。


「あ、ムラサキ、行くのかい? じゃあそこのトレイ持って行っておくれよ。キッチンの流しに置いておいておくれ」


 彼女の指の先には、山の様な皿を積んだトレイがあった。


「はい。明日まとめて洗いますね… あ、そう言えば船長」

「はい?」


 そう言えば、これを聞いておこう、と僕は思ったんだ。


「…この『隠れんぼ』って… いつまで続くんですか?」

「あー… 一応、全員ゲームオーバー、という事になっていますが…」


 船長は天井を見上げる。


「無理ね」

「無理じゃな」

「無茶だぜ」

「駄目ですよ」


 最後はぶるんぶるん、と首を振るナヴィ。

 でしょうね、と当の船長も肩をすくめた。何せ残っているのは只一人、ドクターなのだ。

 あのフルーツ・イーターのドクターが、酒蔵の存在を知っているのか、酒に関することを考えついたりするんだろうか、それすら僕には想像がつかなかった。


「うーん、どうしましょうねえ」


 さすがの船長も、笑顔のまま困っているようだ。

 と、その手の中のものに目をやった時、ふと僕の中に、稲妻が走った。


「…も、もしかして、船長… ピクルスって、苦手ですか?」

「ん? 漬かりすぎのものはね。それが何か?」


 …まさか。


 もしかして、船長を困らせた、という意味では、…いやそれ以上に、ドクターはこのゲームの勝者だったんじゃないか?


**



 …と言う訳で、長い長い一日が終わりました。


 えー… と、ドクターですが。どうなんでしょう。あの部屋って、船長と隊長しか開けられないんですよね… あのままソファで眠っていて… うーむ…

 まあいいです。明日のことは明日考えましょう。それはこの船で僕が学んだ教訓の一つです。

 それにしても。

 「隠れんぼ」としての勝者は今回、あれは船長の次に見付けた、という意味では、ナヴィが一番、ってことなんですかね。ドクターは見付けられないからまあ、最後ってことで…

 でもドクターは今回船長に対しては最大の勝者だと思うし…

 そもそもゲーム自体の性格が隊長への罰、って言ったって、全然隊長、へこたれてないじゃないですか! 結局あーやって猫の様に船長とごろごろして…


 …だから…


 ってことは、…ちょっと待って下さいよ。もしかして、最大の被害者って僕じゃないですか?

 そうです、何っか船長の説明で釈然としなかったのも、結局そのせいです。

 確かに僕は「隠れんぼ」では良くない成績でしたが… それ以上に、かーなーりーの精神的被害を被っているじゃないですか!

 まず! いつもだったら労働の後の最大の楽しみである朝ご飯にありつけなかったこと(サンドイッチ? だってあれは昼ご飯だったし)。

 そして皆の心配をしまくったこと。

 ボマーさんに脅されたこと。

 隊長と向き合う恐怖を味わったこと。

 そして闇の中での襲撃。

 …止めどなく僕は理不尽さを感じるんですが、…違いますか?

 でもきっと、この船のクルーが取り合ってくれる訳ないですね。

 はい。僕もまだまだ甘いです。アリさん見習って、物事は一つ一つ精進します。

 あ、ただいいことも一つだけありました。

 と言うのも、僕はこれまで霊だの怪談だの呪いだのといったオカルトの類が怖くて仕方がなかったんですが、…どーやら今日のこの事件を境に、何処かへ消えていきそうです。

 だってそうじゃないですか。

 ボマーさんも言ったけど、…現実で一番恐ろしいものに出会ってしまったら…そんなもの…


 あ、もう日付が変わります。良かった、何とかぎりぎりセーフです。書き方が多少乱雑でも許して下さい。


 それではお休みなさい。

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