第37話 冒険者家を買う③
『この屋敷には様々な仕掛けを用意した、解除するにはこの屋敷のどこかにあるスイッチを押すしかない、頑張りたまえ』
一方的な要求をしてテージ・フォレストバレーの幻影は消えた。幻影でさえも威厳に満ちていた辺り、生前は高名な建築家というのも頷ける。
「この屋敷の中のボタンねえ、結構難しいな」
リョウは溜息を吐く、外観から見てもかなり広い屋敷、ヒントなしで捜索は骨が折れるし、その上殺意マシマシのトラップがあるとなると面倒なんて言葉で片づけられないレベルである。
「まーあれこれ考えても仕方ねえし、いこーぜ」
「そうね、まずは行動あるのみ」
「行きましょう」
「ちょっと待て」
アンデッド、女神、魔剣のこいつらならともかく、自分は人間なので彼女たちにとってはかすり傷のような一撃だとしても致命傷になりかねないから慎重に――。
「大丈夫だ」
何故か自信満々のサクラはおもむろに左腕を引き千切り、前方に向かって投げた。
廊下に落ちた左腕が廊下に突如空いた穴に落ちた。
「よしこっちに落とし穴があるから、こっちの道から行くぜ」
「お前身銭を切ることに慣れすぎじゃね?」
アンデッドだとわかっていてもその光景はちょっと引く。
「というかどうやって腕を回収するんだ」
「あ」
穴にドリームリボンを垂らして回収。
「じゃあこっちのから」
落とし穴のある場所とは違う道から――瞬間。
「あばばばばばばばばばばばばばばば!」
サクラが雷撃を喰らった、皮膚が焼け焦げて、黒ずむ。
「サクラ!」
雷撃が終わって、廊下に倒れ込んだ。リョウは慌てて助け起こす。
「大丈夫か」
「こっちは電気トラップがあるから注意だな」
「悲壮感がなさすぎる」
部屋の奥に進む廊下は二つとも駄目だった、あとは正面の扉、そして二階に進む階段だけ。
さっきの光景を見る限り、加減の知らないトラップはこれからもあるだろう。
サクラの腕を囮にして探索を続けると飾っている兵士像が火を噴き、壁からナイフが飛び出してきた。
それでも何とか致命の罠の数々を潜り抜けて、書斎に行った。この屋敷の中心に位置するこの書斎にスイッチがあると思ったのだ。
しかし――。
「あるとしたらここかなって思ったんだけど、ないわね」
書斎の隅から隅まで探したが、スイッチは見当たらない。
「やっぱりある程度の目星はつけたいですね」
「ああ、もう右腕もボロボロになっちまったし、次は左手にしねーと」
「左腕を消耗品みたいに言わないでください、あれ?」
高級そうな気づくりのデスクの引き出しを開けていた、グラーシーザーが妙な声を上げる。
「どうした、グラシ」
「リョウさん見てください」
それは羊皮紙の束だった、そこに書かれているのは幾何学模様の羅列。
「これは設計図か」
「この中にこの屋敷のものとかあるんじゃないですか」
「よしじゃあ手分けして探すか」
今まで作った建物の設計図が引き出しに入っており、その数は膨大である。
「ねえ、リョウ」
黙々と設計図を探していたがアテナがここで沈黙を破る。
「何だよ、アテナ」
「テージ・フォレストバレーは、晩年にこういったからくり屋敷を設計していたのだけれど、それまでは貴族向けの屋敷を設計していたのよ」
「へーそうなのか」
「聞きたいんだけど」
「何?」
「芸術家が今まで積み上げたものと全く別物を作り上げるのはどんな時なのかしら?」
「いや知らんけど、自分の価値観がひっくり返るようなことがあったんじゃね」
リョウは芸術家ではないし、何か一個のことを極めたこともないからそんな晩年の芸術家という自分とは正反対の人種の思考など知る由もない。
「このお屋敷は高名な芸術家の最後の作品、だから何かしらの意味があるはずよ」
最後の作品、自らの人生の幕引きに相応しい最高傑作を用意するはず、ということか。確かに何かありそうな気がする。
そんなことを念頭に置きながら捜索を続けると。
「二人ともこれを見てください」
グラーシーザーが見つけた羊皮紙には見覚えのある間取りが書き写されていた。
この館の間取りである、しかしその中で一か所妙な部分がある。
「一階なのに下り階段があるわね」
「地下室があるってことか?」
「ええ、でも、地下の設計図がないんです」
グラーシーザーの見つけた下へと続く階段を降りていったのはいいものの、地下には地下室はなかった。
正確には地下室というレベルではなく広大な迷宮になっているのである。大きな迷宮の先。小高い丘のようなところに地上の屋敷と同じ屋敷が建っている。
「どうなってんだよこれ」
サクラの疑問もごもっともである、下に降りていく途中で見た迷宮の姿は地平の彼方に続いているように見えた。
「見た感じあそこがゴールにみたいだな」
「ようやく目標ができましたね」
「あとはあの迷路だけね」
ここでようやくも明確な目標ができたのでテンションが一行は迷宮に飛び込んだ。
これが現実というのならいったいどれほどの人たちが動いていたのだろう。
丘の上を目印に進んでいく、右へ左へ迷宮を進んでいく。ちなみに壁を昇って上からおこうとしたら、天井から光線が降り注ぎ、かろうじて残っていたサクラの右腕を消し炭になった。
「これ作るのは大変だったろうな」
「いやこれは実際あるわけじゃないわ」
「え、どうゆうこと」
「地下の階段の入り口の辺りからかしら、微かに魔力の流れを感じたから、この空間は結界の類よ」
着実に進んでいることを見るにゴールがないひねくれた結界ではないらしい。会話をしながらも罠を躱しながら進んでいく。
「妙……ね!」
振り子のように揺れる三日月の刃を躱しながら疑問を呈するアテナ。
「何が……だよ!」
飛来する三本の矢を躱すサクラの質問にアテナは淡々と返す。
「テージ・フォレストバレーは、ただの……建築家……だった……はずっ」
「そう……ですね!」
落とし穴を飛び越えながら、会話を続けるグラーシーザー。
「こんなに……広範囲な……結界を張れるはず……ないのよ!」
「なるほどな!」
リョウもかっこよく足元にある縄を飛び越えたがその先にある糸をひっかけてしまい、天井から落ちてきた石が頭に直撃する。
「ふげっ!」
「地上の屋敷……地下迷宮……ここまで厳重だと……何かあると見た方がいいわね」
地雷を踏み抜いたが爆風よりも早く跳躍して回避するアテナ。
「ここまで……厳重に何かを守る様に設計した……のは意味がある、と?」
どこからか発生した雷撃を炎の壁で防御するグラーシーザー。
「ま、あそこまで行ったら、何か分かる……だろ!」
後ろから転がってきた大岩をサクラが粉々に砕いた。
「あばばばばばばばばばばばばばばば!」
そして彼らの弾いた攻撃がリョウに降り注ぐ。
「俺だけめちゃくちゃ貧乏くじ退いているような気がする
新世界黙示録 ~どこにでもある異世界のお話~ 未結式 @shikimiyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。新世界黙示録 ~どこにでもある異世界のお話~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます