第35話 冒険者、家を買う

「――へっくし」

 服の隙間から入ってくる底冷えする風、毛布を――。

 そうやって伸ばした手が掴んだのは、干し草。

「あーそうか」

 ここは馬小屋。魔王軍のそこそこえらいやつの右腕との戦闘で家が燃えてしまった。

 一応ここの管理者のご厚意で次の家が見つかるまで、ここで寝泊まりさせていただいているのだが。

「限界だ!」

 まあ家畜小屋なのでそれなりの匂いしていたのはもう慣れたから別にいいが、問題は冬に移行するこの季節、これ以上冷えると凍死しかねない。

「というわけで当面の目標は家探しだ」

 ギルドの飲食スペースで、リョウは今朝のことを事細かに説明しながら不満を三人娘にぶつけた。

「私は平気だけど」

「あたしも」

「私もです」

「うるせえ! 野生児ども!」

 どうやら女神、アンデッド、魔剣の面々はそこまで感じていないらしい。しかし自分はできれば今の環境から脱却したい。

 この人数で住める家で安いところとなると難しい。前の家は正直四人はいると結構狭かったので大きなところへ。しかしそうなると家賃問題が発生する。

「あーこの際ちょっと曰くつきでもいいから、安くて広いところをないかな」

「「「その言葉を待っていた!」」」

 ちょっと遠くの席に座っていたフラグ三人衆が勢いよく立ち上がった。というか聞き耳立ててやがったのか。

「話は聞かせてもらったぜえ、お嬢さんたち」

「お家を探してんだろ?」

「条件に合った物件があるのか?」

 相も変わらずに小悪党のような喋り方であるが、どうやら条件に合った物件を斡旋してくれるようだ。

「まあクエスト込みでな」

「あ、いいです」

 リョウはフラグ三人衆エリックの言葉を遮った、嫌な予感がするからだ。

「まあ聞くんだ」

「いやです、だってどうせいわくつきの幽霊屋敷に巣食う主を倒したら、格安で売るとかだろ」

「取り壊そうにも呪いとか怖いから、私たちに任せようってギルドからのお達しなんでしょ」

「違うって、町のはずれの大きい屋敷なんだけどさそこなら格安で売ってあげるってさ」

「……なぜに?」

「家主が亡くなってそのままの家なんだけどさ」 

 そういってフラグ三人衆、間取りの描かれた紙を机の上に広げた。部屋数とか全体の大きさとか前の家とは比べ物にならないレベルである、そして普通に一軒家を買うよりも安い、絶対何かある。

 しかしこれ以上の条件が見つかるとも思えない。触らぬ神に祟りなしという言葉にがあるが、虎穴に入らずんば虎子を得ずという言葉に従おう。

「で、交換条件があるんだろ」

「……ああ、その条件は」



「これは……」

「実物見ると立派ね」

 眼前に聳え立つ洋館、家主がいなくなりかなりの年月が経っているらしいがその威光は色褪せず、リョウとアテナを圧倒する。

「早く済ませちまおうぜ」

 拳を鳴らしながら、サクラが敷地内に足を踏み入れた。

――刹那、かちという金属音。

「え」

 爆炎は吹き出し、サクラは弾き飛ばされた。

「おーい大丈夫かー」

「大丈夫じゃねー」

 黒焦げになったサクラ、どうやら敷地内の地雷を踏んでしまったらしい。

 倉庫の屋敷の家賃が格安な理由。この家は罠が張り巡らされているのである。

「こりゃあ一筋縄ではいかなそうだな」

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