第33話 邪神教典③
とりあえずマドラス教の本部に向かうが、正直得体のしれない集団の本拠地に行くのは億劫である。まあ落とし物届けるだけなので大丈夫だろう、多分。
いつもの〇・六倍の速度で歩くリョウ。
「あー!」
そんなリョウを道の真ん中でこちらの指差している一人の男が現れた。
「そ、その本は私のものだ! 返したまえ!」
いやこの本を墜としたのはいかにも怪しげなローブを羽織った人で、そんなどこからどう見ても常識人なこの男ではなかったはずだ。
「いいから、返したまえ!」
「ちょ、何やってんだ、あんた!」
渡すのを拒むと無理に引っ張ってきた。
「破れる! 破れるから!」
「ええい、君が離せばいいだろう! これは私のものだ」
「あのなあ! この本の持ち主は、昼間なのにくそ暑そうなコートを羽織ったいかにも怪しい宗教団体の奴だぞ!」
「き、貴様! 由緒正しきマドラス教を侮辱するのか!」
「え、あんたマドラス教の人か」
「あぎゃん!」
驚きで邪神教典(お土産)から手を離してしまった、おかげで力いっぱい教典を引っ張っていたマドラス教の一員と名乗る男が吹き飛び、その勢いのまま邪神教典を放り投げた。
「あんたさっきまで、着てたローブはどうした」
「魔道具店で燃えたのだ」
「いったい何があったんだよ、この短時間で」
「ともかく、これは私のものだ」
「え、ああそうですか」
まあ結果オーライである、このまま持って帰ってもらおう。男が石畳に落ちた邪神教典を拾い上げようとしたとその時、何かが割り込んだ。
ガーゴイル――鳥人の魔物である、この辺りに出現するのは魔王軍にくみしない野生のもので、人間が落した食べ物などをかっさらう、日本にいたトンビのような存在である。
そんな鳥人が邪神教典を持って行ったのだ。獲物を持って行った鳥人の背中を啞然と見送る。
「待てえええええええええええええええええええ!」
我に返った男が絶叫をあげながら、ガーゴイルを追う。
「おい、君も手伝いたまえ!」
「え、あ、はい」
男の剣幕に圧され、リョウもガーゴイルの後を追う。
「きみ、どうにかしてあいつを撃ち落とせないか」
「やってみる」
リョウは右手をガーゴイルに向かって、構える。掌の前に渦巻く火球、フレイムシュートを放つ。
「外した!」
「もう一発頼むぞ!」
男の指示でもう一発放つが、やはり当たらない。やはりもっと練習が必要か。
結局火球を当てられないまま、走り続ける。
「このままじゃ町の外に」
「……もうだめだ」
男が首を垂れる、防壁の外に出ようとしているガーゴイル、このままだともう少しでフレイムシュートの射程距離から外れる、どうする。
「あ、リョウお帰り」
「サクラ!」
余りに必死に追っていたため気が付かなかったが、自分の家の前だった。
地獄に仏、ピンチにアンデッド。
「サクラ、あのガーゴイルを撃ち落としてくれ」
「何かよくわかんねーけど、りょーかい」
そういうとサクラ少し大きめの石を拾い、大きく振りかぶって投げた。もの凄い勢いで飛んでいき、空のガーゴイルに直撃する。
「いっちょ上がり」
「サクラさん流石っす」
ガーゴイルは意識を失ったのか、そのまま墜落していく。無論邪神教典も。
「ハハハハハハハハハハハハハ!」
高笑いをあげながら、男は邪神教典の着地点に入った。
「よし、これで――あばし!」
着地点に入る直前で、石畳につまずいて転倒する。しかし何とかスライディングする形で地面につく前に邪神教典を受け止めた。
「ははは、遂に遂に手に入れたぞ」
石畳でゴロゴロしながら狂喜乱舞する男、あれ土産物ってこと知らないのか。
しかし男は広げてパラパラしてみたりと子どものようなに喜んでいる、男にその事実を伝えるには残酷な気がする。
そんなことをしているうちに、一筋の赤が邪神教典に垂れた。さっき顔面から地面に激突した時に出た鼻血がくすんだページに落ちる。
その瞬間、邪神教典が鈍い輝きを放った。
「何だ⁉」
何というかこういう演出も再現してくれる土産物なのか。
「おお、邪神の復活だ!」
だがその邪悪な光はどう考えても、一回の土産物屋が作れる代物ではない。
「え、マジで本物?」
リョウがそのことに気がついた時にはすでに遅かった、邪神教典は一人でに宙に浮きあがり、怪しげな光を称えている。
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