番外編3 残念なヒロインたちの宴
揺れる視界、定まらない思考、そして熱い全身――速い話が風邪である。
――なんも考えられない
リョウはベッドの中で暇を持て余していた。ここ数日はこの状態、流石にやることがない。アテナたちは各々仕事に出ているので話し相手もいない。
一瞬、少し寂寥の感じる――いやここ数日の彼女たちの看病を思い出して「ないな」と思う。
アテナの場合。
「ごはんよ」
「おーありがとう」
「ほら口開けなさい」
この女神に限って「あーん」とかないんだろうなと思っていたが予想通りの食べさせ方である。
伸びてきたスプーンに食いつく、物凄く淡白な味の中に、酸味と甘み。後味までさっぱりして風邪ひきの身にも食べやすい。
この家の大半の家事を引き受ける女神、アテナ。その家事スキルは毎回感嘆する。
「ああリンゴ入ってんのか」
「ええ、あと――」
そういって白い群体の奥底にスプーンを突き刺した。そしてその水底から取り出したのは茶色物体。
「……何これ」
「マタンゴを焼いたのよ、栄養あるから」
「すげえ食べにくいな」
たまに訳の分からない食材を突っ込むのが玉に瑕である。
「ほら食べなさい」
「ちょ、ま、まだ心の準備があああああああああああああああああああ!」
グラーシーザーの場合。
「じゃあ何か欲しいものがあったら言ってくださいね」
「おーありがとう」
汗を拭いたり、おでこの冷やしたタオルを一通り変えて、グラーシーザーは出ていった。
「なんつーか、普通だな」
一応自分のパーティーの中では大分常識人寄りの思考のグラーシーザーだから当然といえば当然か。まあ退屈している自分からしてみればちょっと一悶着あっても――。
「あ、リョウさん」
グラーシーザーが帰ってきた、手には何か怪し気な色の液体が握られている。
「……何それ」
「アイリス先生からもらった風邪薬です」
例えるのであれば、一年間掃除していないプールの水くらい濁った色をしている風邪薬を握っていた。
「これ呑んだら一日で風邪が治るらしいですよ、さあお口を開けてください」
「おい待て、そんなこの世のまずいものを全て混ぜて作ったみたいな風邪薬は遠慮させてああああああああああああああああああ!」
サクラの場合。
「やっほー見舞いに来たぜ」
「おー」
「起き上がる気力もねえのか」
「悪い」
もう頭が熱くてしょうがない、思考もまとまらないし、会話もできないレベル。意識も飛ぶ。
「あーもう休んどけ、タオル変えとくから、あれそういえばタオルがねえ。まあこれでも乗せとくか――」
サクラの声が遠くに聞こえる、暗くなっていく視界の中、頭部に冷たい感触を感じて微睡に落ちていった。
目を開ける、頭の熱は多少ましになっていた。
これもサクラがタオルを変えてくれた、いやそれにしてはやけに重い。
しかし冷たい感覚がおでこにある、何が置かれているのだろうか。
頭の上のものを取る――掌が全部占領されるくらい太く、そして重い。
白くて重いもの――それはサクラの左腕だった。
「ぎぃやああああああああああああああああああああああ!」
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