第28話 勇者VSオークVSビッグジョーズ①

「さて」

 見渡すばかりのサメの大群に、リョウたちは向き直る。湖に犇めき合うサメの群れ、恐らく目を瞑って石を投げてもどれかには当たるくらいに。

「じゃあまず奴らを陸に上げないとな」

 湖を不法占拠しているサメ、グランドシャーク。白い巨体に陸も移動できるように四つの足が生えている。

 しかし陸も移動できるとはいえ、勿論泳ぎの方が得意。そもそも自分たちやオークたちは水中では活動できないので奴らを陸に上げる必要がある。

「じゃあまず俺たちが金髪美女に成りすますから」

「何でだよ」

「馬鹿野郎、サメの主食は金髪美女と蛮族なんだぞ」

「どうなってんだお前の故郷のサメは」

 サクラのリアクションももっともだったが、嘘は言っていない。

「まあ冗談はともかく、今回はそんなことしなくても、あんなにいるんだから適当に攻撃したらこっちに来るだろ」

 前回のようにこの広大な湖に潜んでいるわけではないので、遠距離から適当に魔法でも撃っておけば適当に倒せるかもしれない。

「じゃあ、とりあえず雷とか使って一掃しようぜ」

「やっぱり容赦ないわね」

「でもあたしたちの中で、雷の魔法とか使えるやつとかいなくね」

 アテナとサクラの言う通り、そしてオークたちも全員首を横に振った、現実は非情である。

「じゃあとりあえずサクラ、先制攻撃頼むわ」

「合点だ」

 サクラが一歩に前に出る、そして拳が光り輝く。

「オラアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 雄叫びとともに放たれる光の球。

 それが湖の真上で止まり、そこから降り注ぐ光の矢が、グランドシャークの群れに向かって降り注ぐ。

 降り注いだ光が爆裂し、サメたちを一網打尽にしていく。湖から吹き飛ばされて、陸に打ち上げられるサメの死骸。

「あ、結構簡単に終わりそうですね」

「『このまま私たちの出番はないかな』」

「いいこと教えてやるよ、グラーシーザーとオークさん。サメってのは剣で切られようが、撃たれようが死なないんだぜ」

「ということは」

「多分あと一悶着はあるぞ」

 リョウの言葉通り、攻撃を逃れたサメが続々と浜辺に上がってくる。

 水面近くに溢れかえっていたサメは余すことなく倒したのだが、水中にいた奴等には光が拡散して勢いを失い、倒しきれなかったようだ。だがそれは織り込み済みだ。

「よし、いくぞぉ!」

 リョウの掛け声で陸に続々と上がってきた鮫たちに応戦する。

 勇者パーティとオークの大群対サメの大群、ここに魔獣大決戦の幕が開く。

 戦況ははっきり言って、はっきり言って勇者側の優勢だった。

 やはりホームグラウンドである水中から引きずり出されたサメ、その動くは鈍く鈍重なオークの動きでも十分対応ができる。

「オラァ!」

 そして勇者パーティ、サクラの活躍は言わずもがな、その拳がサメの塔を建造する。

 そしてグラーシーザーを手に取った、リョウこの中でぶっちぎりで最弱だが、それでもなんとか一匹ずつ丁寧にサメを殺していく。

 そしてアテナは、サメを直接攻撃できないので舞空術を駆使して、空中から回復などの支援。

「はい、みんな頑張って」

「納得いかねえ!」

 空に向かってリョウは抗議する、確かにアテナの役割も重要だし、彼女の制約を抱えるも知っているが――空中で寝転がったままの支援する女神の格好はどうも受けいれられない。

「じゃあもっと可愛くいってみましょうか、みんな……頑張って……」

「うわキツ」

「張ったおすわよ」

 そんなやり取りをしながら、次々とサメを倒していく。

 オークの長がサメの頭を斧で叩き割る。リョウがグラーシーザーでサメを真っ二つにする、サクラの格闘がサメを吹き飛ばす。

「あともう少しよ」

 上空から湖の様子を確認していたアテナは、サメの勢いが最初に比べると目に見えて勢いを失っているのを確認した。

 そしてその言葉通りに、最後のサメが現れた。

「「「オラアアアアアアアアアアアアアアアア!」」」

 全員屠った。もう数えるのが面倒なくらいのサメの死骸が散乱している。

「よーしこれで依頼は達成だ」

 そして彼らの食糧問題もある程度は解決するだろう。

「意外と呆気なかったな」

「サクラそういうセリフはフラグ――」

 リョウの突っ込みが言い終わる前に、異変が生きた。

 突如としてサメの死体が浮かび上がる、浜辺に打ち捨てられていたサメたちが虚空を彷徨い、そして一つの場所に集結する。

 そして集結したサメたちが一つになる。

 そして死骸の塊に新たる命の息吹が吹きこまれる、それは天に届くほどの巨大なサメ、この広大な湖を一匹で埋めてしまうほどに。

「ねえリョウさん」

「何だグラシ」

「あのサメって合体するんですか」

「何なら変形するやつとかもいるぞ」

 場にそぐわないほど暢気な会話、互いに現実に背けようとしたが目の前の巨体が否が応でも視界に入ってくる。

 最悪の第二ラウンドの開始である。

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