第24話 深き森の馬鹿たち
森の中な犇めき合いながらも、一つの方向に向かっていく獣人と小鬼の群れ。崩壊し、凸凹になった地面を、倒れた木々を、その強靭な肉体で乗り越えながら進んでいく。
その野生に満ちた魔物の集団を少し離れた場所から見つめる四人組。偵察に出たリョウたちである。
「すげえな、おい」
現在リョウたちは着々と近づいてくるオークとゴブリンの群れの偵察中であった。
連綿と続く茶色の帯が進行しているのがわかるくらいの数を見て、リョウは素直に感嘆の声を上げる。
「どんだけいるんだよ」
「数が多すぎて、笑っちゃうわね」
歴史の教科書に書いていた参勤交代のような光景にリョウは思わず苦笑、多すぎてどういう展開の仕方をしているのか分からないレベル。
「もうちょい近づいて、偵察するか」
「でもあれだけの数いたら見つかる危険が高いわよ」
「あの数で攻められたらひとたまりもないですね」
虎穴に入らずんば虎子を得ず、というが今回虎が多すぎる。
「できれば安全地帯から、正確に敵がわかればいいんだがな」
しかしあれだけ多くのオークとゴブリンに発見されずに安全に敵を偵察する方法なんて。
「あたしにいい考えがあるぜ」
「え、マジか」
ここで名乗りを上げたのはサクラだった。全ての条件を満たす夢のような作戦があるのか――
サクラはおもむろに手で自分の頭を挟み込み、そして。
「よっこいしょ」
「おい」
自分の首をそんな簡単に外すな。
「ほっ!」
その上サクラはサッカーボールを蹴るように、自分の首を蹴り上げた。
サクラの首が天高く舞った。ほぼ垂直に飛んでいった頭は青空に重なる。
目を見張るような青空に、美女の首。アンバランスでシュールな光景に、他の三人はしばし目を奪われる。
そして首はなす術なく自由落下する。
その天から降り注ぐ美女の首を目掛けて体がダッシュし、ヘッドスライデングで首をキャッチする。
「三百はいたぜ」
「何だそのアバンギャルドな偵察方法」
サクラの頭部が胴体に抱きかかえられながら報告を入れる。その危なすぎる光景に思わずツッコミを入れる。
そんな世界の拷問で検索をかけたら出てきそうな方法で手に入れた情報を報告されても中身の印象が薄れるわ。
「ていうかこれ、めっちゃ目立つんじゃね」
「うーんまあ、今日は一生首ありそうだなとか思ってるんじゃね」
「そんな『一雨きそうだな』みたいな感じになるか」
とは言ったものの、オークたちは森の凸凹の地面を進むのに気を取られて、どうやら自分たちが偵察していることはバレていないようだ。
ここで本題に戻り、敵の戦力の話へ。
「それにしても三百か……多いわね」
「町の冒険者の頭数より多いな」
数日前にダムドの襲撃で疲弊した冒険者たちには荷が重い相手だ。
偵察が本来の目的だったが、できれば少しだけでも罠とか張って敵の数を減らしたいところ。
「とりあえずもう一回、進行方向とか待ち伏せとかできる場所を確認するわ」
さっきと同じ要領で、サクラは首を外す。
「二回目だけど心臓に悪いですね、これ」
そしてもう一度、天高く首を蹴り上げた――しかし。
「あ、やっべ」
強く蹴りすぎた。
サクラの頭部は先に予測していた着地点から完全に外れて、どんどん飛距離が伸びていき――オークたちの中心に。
突如降り注いだ生首に、着地点付近のオークたちが固まる。
「……こんにちは」
気まずそうに挨拶をしてきた生首の言葉に、威嚇の方向や悲鳴などでカオスと化す。
「あわわわわわわわわ」
「やっべえ! 早くあいつ回収しねえと!」
更にここで胴体がオークの群れに突っ込んでいった、群がるオークたちを蹴散らし、一直線に自分の頭部に向かっていく。
唐突な闖入者に、戸惑いを隠せないオークたち、動揺で体が硬直したところに拳が、足が叩き込まれる。
「ふーあぶねえ」
そして何とか胴体が頭部の所に辿り着いた。
しかしそこは敵の群れの真っただ中。サクラの攻撃によって吹き飛ばされた穴を埋めるために、辺りからオークが集結していく。
「やっべ!」
思ったよりオークの動きが早くこのままでは完全に包囲されてしまう。
――だがそこに二方向から飛んでくる火球、そこだけ道が開ける。
「逃げるぞ!」
道の先にいたのはリョウたち、リョウとグラーシーザーの攻撃によって何とか一筋の脱出経路が開いた。
「助かった!」
囲まれる前に合流に成功した。だが闖入者をただで返してくれるわけはなく。その強靭な肉体で追ってくる。
こちらも脱兎のごとく駆けだすが――
「はやいなあ、おい!」
こちらの方が足速いのに、オークに徐々に距離を詰められている。
元々この森の環境はダムドが進行したせいで良くはない。倒木などが道を塞いでいたり、地面の状態も悪い。
それは向こうも同じだが元々森に生息している、オークたちは問題の対処に慣れているようで、こっちよりも対応が早く、その差で距離を詰められる。
いつの間にか最後尾を走っているリョウの背中に手が届きそうになっていた。
――まずい、このままじゃ。
どうにかしてオークを引き剥がさないと、脳をフル回転させる。
そして天啓を得た。
「サクラ、お前の左腕ちょっと貸してくれ」
「合点だ」
「そんなペンを借りる感覚で、腕を貸し借りしないで」
そして借りた腕を、追手に向かって投げつける。
「ほい」
「あたしの左腕えええええええええええ!」
オークたちがすかさず左手に群がった、死肉をあさるような目で。
作戦が功を奏して、どんどん距離が開いていく。
「よし!」
「よし、じゃねーよ!」
そのまま全員、オークが見えなくなるまで全力で駆け抜けた、サクラの左腕を犠牲にして。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます