第22話 破壊龍ダムド②

 明るい、暗い、暑い、寒い、空の上、海の中、そのどこでもない場所、人間の知見では到底認識できない領域に鎮座するは――世界をまたにかける邪神ロキ。

「ふふふ、さあ立ち向かえ小さきものよ。その試練を乗り越えた先にこそ。英雄へと至る道があるのだよ、ハハハハハハハハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハ!」

 そんなロキが喜悦に心を踊らせながら――

『おっと薫子ちゃん、つまずいちゃった』

『はじめてのおつかい』を観ていた――



「それで、結局プラン9ってなんなんですか」

「じゃあ説明を――」

 この状況を打開する策を口にしようとした、その時――ダムドがまるで深淵から噴き出したかのような禍々しい叫び声を上げた。

それを耳にした全員の本能が警鐘を鳴らす。

「やべえ、逃げるぞ!」

 全てを威圧する咆哮とともに、ダムドは全身の武装を全弾射出する。

 降り注ぐ数多の武装が、草原を砕き、更地に変えていく。豊かな緑の絨毯が捲れあがり、顔を出すのは裸の大地。

「ちょぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉ!」

「あわわわわわわわわわわわわわわ」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 阿鼻叫喚、地獄絵図、攻撃もさることながら、サクラ、グラーシーザー、リョウの声にならない悲鳴を上げながら全力疾走、アテナもかなり必死な表情で逃走する。

 一斉砲撃は約一分間続いた。

 やがて武装を全弾撃ち尽くしたようで、殺意満点の雨は止んだ。

「や、やばかった」

 リョウは全身から冷や汗が噴き出していた。

「これ町に降ってたらやばかったな」

「でも、それも時間の問題よ」

「……早く倒さないといけませんね」

「よし、プラン10だ」

「いや9を先にやれよ」

「すまねえ」

 まともに数を数えられないほど、動揺してしまっている。

 一回深呼吸、そして気を取り直して。

「おう、アテナ頼む」

「ええ」

 アテナの返事とともに、リョウに魔法をかける。

「はあああああああああああああああっ!」

 光に包まれたリョウの筋肉が肥大化し、その細腕が筋骨隆々の腕に変わり、某世紀末英雄伝説ように筋肉が服の袖を突き破る。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

 破壊の限りを尽くすドラゴンには地獄すら生温い! リョウの筋肉が天と悪を突き破る!

「おお、筋肉がきれてる!」

『方にちっちゃいオーガ乗せてるみたい!』

 身体強化、その名の通り単純に攻撃力、防御力などを底上げする、俗にいうバフである。

 早い話ステータスが足りないなら、強化すればいいじゃないということである。おかげでサクラとグラーシーザーが変なテンションになるくらいの筋肉モリモリマッチョの変態になる。

「来い! グラーシーザー!」

グラーシーザーのステータスは自分の攻撃力を強化すればするほど、高くなっていく。故にこの状態の攻撃力を参照すれば、サクラが触れたときとまではいかないが、それなりの強さの魔剣となる。

 予想通り、強化が完了したグラーシーザーのステータスは強化前の二倍ほどになった。

「行くぞ!」

『はい!』

 グラーシーザーが燃え上がる。それは今までにない余程大きく、燦然と輝いている。

 紅、全てを焼いて塗り潰す、赤が穏やかの草原に出現した。

「砕け散れえええええええええええええ!」

 業火を纏った魔剣の一撃、燃え上がる炎刃が黒の装甲に直撃する、一際大きい金属音を放たれた熱。その余波が周囲にあるものを吹き飛ばす。

間違いなく今までの自分の中で最高の一撃だった。

 しかし――。

「マジ?」

 その炎が黒の装甲を灼くことはなかった、剣がダムドに当たった瞬間、炎が拡散した――効かなかったのだ。

「ああああああ、くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 渾身の一撃が全く通じなかった、その動揺から自然と巨大なシャウトが爆発する。

『ちょま、リョウさん、やけをおこさないで、あああああああああああああああああああああ!』

 破れかぶれにグラーシーザーを投げた。回転しながらグラーシーザーはダムドに向かって一直線に飛んでいく。

 しかし何の狙いもつけていない攻撃が当たるはずもなく。

 ダムドの横をすり抜けて、後方に飛んでいく。

「やっべ……」

 これで完全に武装を失ったリョウ、アテナのかけた魔法も効果が切れ、元の姿に。

 もう抵抗する力のない勇者に向かって破滅を齎す龍が進撃する。

 目の前には自らの攻撃を歯牙にもかけない巨影、このままでは自分だけではなく仲間も売りの町もなすすべなく蹂躙されることになる。

――しかしそんな状況で、リョウが浮かべていたのは絶望の表情ではなく勝利を確信していた笑みだった。

 リョウの視線、それはダムドではなく、ダムドの後方を捉えていた。

 それは飛んでいるグラーシーザーだった、いまだにその勢いは衰えず。空を飛んでいる。

 そして、その魔剣の行き先にいたのは――サクラだった。グラーシーザーの射線上に割り込む形で跳んだのであった。

「はああああああああああああああああああ!」

 その足が光り輝く、太陽の光にも負けない光の足――大技の予備動作。

「この一撃で!」

 そしてグラーシーザーを蹴った。

――サクラが触れたことによって、グラーシーザーのステータスが変わる。それは文字通り、最強の魔剣に。

 グラーシーザーのステータスは最後に触ったもののステータスである、サクラはグラーシーザーを振るうことはできないが、この方法なら最強の魔剣で攻撃できる。

 グラーシーザーは流星となった。降り注いだ真紅の魔剣はダムドを覆っていた障壁を突き破り、その剛健な外殻を破砕し貫いた。

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 巨大な断末魔が、草原に響き渡る。貫かれた部分から罅が全身に広がり、崩壊していく。

「やったか!」

「サクラ、それフラグ。でもまあ」

体を貫かれてもなおこちらに向かって進行してくるダムド、その巨大な手を伸ばす。

「終わりだけどな」

だがそれがリョウに到達するまえに全身が崩れ落ちた。

「うまくいくもんだな」

 プラン9がうまく行ったことに胸を撫で下ろす。

「よっしゃ!」

「綱渡りだったけど何とかなったわね」

 合流したサクラとアテナとともにハイタッチ、手に入れた勝利を分かち合う。

「あ、グラーシーザー、お前も」

 グラーシーザーともハイタッチしようとしたが、どうも様子がおかしい。

「グラーシーザー?」

「……酔いました」

「え」

「……戻しそうです」

「ちょ、待て!」

「町まで我慢できない?」

「ふ、袋とかないか! いやアテナの回復魔法で――」

「――無理で……」



「「「ぎゃあああああああああああああああ!」」」

 強敵を倒したにもかかわらず、最後まで締まらない三人であった。


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