第18話 尾行編②
次の日の昼、四人はギルドで話し合っていた。勿論議題は――。
「じゃあ改めて聞かせてくれよ。なんで昨日の手紙がリョウが書いたものじゃないってわかったか、あの手紙は一体誰が書いたのか」
昨日の推理で明かされなかった謎である。サクラはよっぽど気になっているのか心なしかソワソワしている気がする。
「あたし気になって夜中しか眠れなかったんだ」
「ぐっすりじゃねーか」
「まあサクラの冗談はさておき」
サクラの冗談を軽く受け流し、アテナは解説を始めた。
「最初になんでリョウが書いたものじゃないかわかったのか、だけど」
「だってあの手紙に書いてある文字ってリョウの故郷の言語だって、アテナ言ってたじゃん」
「私も最初はそう思ったけど、突入した時の様子で違うってわかったの」
「どういうこと?」
「だってこの状況になるのは第一条件として、『リョウが嫌々条件を飲まされている』っていうのがないと『手紙を残す』行動に説明がつかないのよ」
「えーと、つまりどういうことだ」
「つまりリョウさんは条件を呑んでいたから。ということはあの手紙を残すわけがないってことですよね、だって合意しているんですから」
「ああ、なーる」
グラーシーザーの捕捉でサクラが納得した様子なので次の話題へ。
「で、結局この手紙って誰が出したんだ」
それが最大の謎であるがしかし。
「言っておくけどこの手紙の送り主はわからないわよ」
「まじか」
心底残念そうな声でぼやくサクラの言葉にアテナはかぶりを振った。手に持った昨日の手紙がたなびく。
その手紙に書かれているもの、それは昨日の朗読の日時に場所、そして――サクラがアンデッドということである。
アンデッドはカテゴリ的には魔物に近い。いくらサクラが気立ての良い美人といえども、敵意を向ける人間や、最悪ギルドで討伐依頼が出されるかもしれない。
故にサクラがアンデッドであるという事実は他人に知られてはならないのである。これまでばれないように気を使っていたのだが、その努力虚しく誰かにこの事実を握られてしまった。
この後の流れ的には、アイリス先生の時にみたいに交換条件を提示されたり、脅迫されるのがパターンな気がするが。
「一体誰が何の目的で、あの手紙を残したんでしょうか」
「それなんだよなあ」
手紙には朗読の日時と場所の他にサクラの秘密のことが書かれていたが、それだけだった。この件をダシにして何かを要求してくるということも、今のところはない。それが余計に不可解さを誘発させている気がする。
「人知れずにリョウを助けてくれた、見知らぬ善人の仕業って可能性はねーのか」
「それなら『私はサクラがアンデッドであると知っている』なんて書かないだろ」
「ぬわー! わからんー!」
サクラが頭を抱える。送り主を特定するには要素が少なすぎる。
姿形もわからぬ人物にうちのパーティとアイリス先生は秘密を握られているのは何とも居心地の悪い話だ。
「とりあえず送り主を探しましょう、今のところは何もないけど、これから脅迫される可能性もあるから」
「地道に探すしかないみてーだな」
今後は相手の出方を見ながら、犯人を捜すしかない。手がかりは『サクラがアンデッドだと知っている』と『日本語を知っている』。これに当てはまる人間は少ないだろうが、見つけるのは難しいだろう。
「分かっているのは多分俺たちの敵ってことだけだな」
「手がかり少ないけど、何とかなるだろ」
「私、町の皆さんに聞き込みしてみますね!」
サクラとグラーシーザーが今後の方針に前向きに同意した。とりあえずの疑問を解決したためか二人は少し晴れやかな表情を見せる。
しかしそんな二人とは対照的にリョウとアテナ二人は、それよりも大きな疑問を抱いていた。
リョウの視界に移る、紙に描かれた文字、懐かしささえも感じる平仮名、カタカナ、漢字が織り交ぜられた言語。
ただの日本語、だがこの世界において日本語というのは異物なのだ。そしてそれを知る存在は唯一無二。
昨日の夜にもアテナを問い詰めたことを思い出す。
「なあ俺の他にも転生者っているのか」
「どうかしら、私がこの世界の担当になって二百年間はあなただけのはずよ」
「はず?」
「まあ、その可能性はほとんどないわよ」
「ちょっとはあるのか」
「私以外の何者がこの世界の裏側に誰かを転生させても気が付かないと思うわ、でもさすがに転生者がこの町にいるなら話は別よ」
つまり他にも転生してきた人間が存在するという可能性はないということか。
「この世界の人間で日本語を使える人物とかはいるのか」
「そんな人間いないわよ……ただ」
「ただ?」
「――別の可能性があるわ」
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