第16話 前触れ
「今日も疲れたなー」
リョウは日課である修業で、疲れた肩を回しながら帰路についていた。もう夜を更け、街を照らす明かりはまばら、人通りも少ない。
夜の街という字面だけ見れば、不穏さが滲み出ているが特に何かが起こることもなく、無事帰宅――しかし。
「ん?」
家の扉の下に紙のようなものが挟まっている。ゴミだろうかと手に取ったが、ただの紙ではなく手紙だった。
「……これは」
「ねえちょっといいかしら」
「どうしたアテナ」
ギルド内で昼食とる三人組、アテナ、サクラ、グラーシーザー、いつもの三人――否、いつものではない。
そう異世界の勇者リョウがいないのである。
「ここ最近リョウが真夜中に出ていくことが多いのよ」
「へー」
「今日もここに来る前に野暮用だって言ってどこかに行っちゃったしね」
「そいつは怪しいな」
「人に言えない用事って何なのかしら」
「こ、恋人との密会とか……ですかね」
自分で言って顔を真っ赤にするグラーシーザー。
「まあ恋人かどうかはともかく、誰かとこっそり会っているってのはあるかもな」
それならかわいいものだが、アテナは多分そんな可愛らしいものではないと察していた。
「心配なら尾行してみるか」
グラーシーザーは心配半分、楽しみ半分の提案をしてきた。
「ちょ、駄目ですよ、二人の恋路を邪魔したら!」
グラーシーザーの中ではリョウは恋人との逢瀬を楽しんでるらしい。
「まあ本当に恋人なら別にいい、問題は何か怪しいことに巻き込まれてないかだ」
サクラの言っていることはもっともである。
「前者ならそれでいいが後者なら、助けないといけない」
「何もなければそれでよし、もし何かあれば実力行使するって方針で行きましょう」
「怪しいことに巻き込まれて」の部分でグラーシーザーも納得したようで、尾行することに同意した。
三人の腹は決まった。尾行作戦開始である。
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