第15話修業編②
その日、リョウたちは草原にいた。
「じゃあ途中経過の確認よ」
目の前にいるのは三体のマタンゴだった。
「大丈夫かな、前はマタンゴ一体とどっこいどっこいだったんだけど」
これで前と同じだったら、と思うと怖い。
「大丈夫よ、私が保証する」
女神のお墨付きをいただいたので、とりあえず行ってみる。
こちらに近づいてくるマタンゴ、前までは遠距離攻撃の術を持たなかったので、こちらも接近していたが、今回は違う。
とりあえず植物系モンスターなので、炎が効く。
右手を広げると火球を作り出す――ファイアボール、ほんとに魔法の初歩の初歩なので威力はそこそこ。
だが奴らにとっては弱点なので威力は絶大。
火球が真ん中のマタンゴに直撃、そして炎上、跡形もなくなる。
成長したのもあるが、敵の弱点を突くっていうのはやはり大事である。修業の他にモンスターのことも勉強しておいてよかった。
真ん中の奴がやられたことで残り二体のマタンゴも警戒し、侵攻をやめた。しかしこれは好都合、すかさず二発目を放つ。
今度は躱された、マタンゴはそして地中に潜った。
仲間がやられて逃げたのだろうか、いや――リョウの背後の地面からマタンゴが飛び出した。
完全なる不意打ち、死角からの攻撃、前の自分なら完全に虚を突かれて決着がついていただろう。
しかし今回はリョウの予想どおりである。地中から飛び出してきた、マタンゴに反応、そのまま右回し蹴りを繰り出す。
靴底から展開された仕込みナイフがマタンゴの胴体を切り裂いた。
そして三体目、同じく背後の地面からマタンゴは飛び出す。今度は飛びかかる前にキノコの傘から黄色いガスが噴き出す、どうやら毒ガスで動きを止めようということなのだろう。
だがそれも想定内、一瞬で後ろに下がって、ちゃんと距離を取り、光の帯を手から出す魔法――ドリームリボンで捕縛、動きを止めて、袖に仕込んだナイフをマタンゴの眉間に向かって投擲、狙い通りの場所にナイフが突き刺さり、マタンゴは絶命した。
三体とも倒せた――ちゃんと強くなっている。
「よっし」
この世界に来てから初めて感じる手ごたえに拳を握る。
「ちゃんと結果が出たわね」
「やりましたね!」
「良かったな!」
パーティメンバーからの祝福を受ける、この場で小躍りしたくなるぐらい嬉しい。
そんなテンションが上がっているリョウたちに近づく巨影。
今度はオーガである、地鳴りを上げながらこちらにゆっくりと接近してくる。
「次はあいつか」
最初に会った時は全く歯が立たなかったが今度こそ。
「え、オーガに挑むんですか」
「やめとけ、まだ厳しいだろ」
グラーシーザーとサクラが止めに入る。
「大丈夫だ、今ならいける気がする!」
「ちょっと待って――」
二人の制止も聞かず、アテナの忠告も届かず、リョウはオーガに向かって突撃する。
本当は魔法で安全圏から攻撃で仕留めるのがいいのだろうが生憎オーガを倒すほどの威力の魔法は使えないので近接戦闘で仕留めるしかない。
オーガの巨大な拳が振り上げられた。狙い通り――一回大技を誘って、その隙に懐に飛び込み一撃を叩きこむことにしよう。
「サンシャインフィストォォォォォォォォォォォ!」
右手に魔力を集中させる、眩い光輝を纏った拳を奴の岩盤のような腹部に叩き込む。
しかしその拳が当たった瞬間、その光が拡散した、オーガにダメージはなし。
「あれ?」
何が起こったか分からないリョウの腹部に、オーガの鋭い蹴りが炸裂する。
余りの威力に宙を舞い、ちょうどアテナの目の前に落下した。
「へぶっ!」
地面に背中から落ちた、全身が四散したかと錯覚するような衝撃で動けなくなる。
「大丈夫?」
「……大丈夫に見えるか?」
顔を覗き込むアテナが回復魔法掛けてくれた、痛みが引いていく。
「……なんで勝てなかったんだ?」
「簡単よ、あなたは技は覚えたけど、レベルは上がっていないからね」
今回の修業では、技を覚えただけでステータス、もとい筋力、持久力などの身体能力の変化はほとんどない。
素人が重量挙げをできないのと同じである。戦い方を覚えてもそこに圧倒的な力の差があれば、小細工は力任せの横紙破りにいとも簡単に轢き潰されるのだ。
その結論に至ったのと同時に、砲撃のような轟音がなる。
どうやらサクラのサンシャインフィストがオーガを粉砕したようだ。
自分の小細工を力押しで突破した奴が更なる圧倒的な力で撃破されて何とも言えない気持ちになる。
「また修行のし直しか」
どうやら強くなるにはまだまだ時間がかかりそうである。
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