第8話 深淵 ――Lost in Abyss――
「いろいろ置いてあるな」
「そりゃ、品ぞろえの多さが売りだからね」
ここは街の魔道具店、魔道具とは魔力を帯びた特殊な道具のことである。
魔道具を統べるこの店の店主――フレイルは店を褒められて得意げである。健康的に焼けた浅黒い肌に似つかわしい弾けるような笑顔である。
そんな彼女の自慢の魔道具たち、占いに使いそうな真ん丸な水晶、何かの獣の牙を加工した装飾品、その他もろもろ。用途がなんとなくわかりそうなものもあれば、全く何に使うのかわからないものもある。
例えばリョウの目の前にある洞窟から発掘されたままの状態で持って帰ってきたとしか思えない石とか。
「これは何だ?」
「見た感じ、ただの石にしか見えねえな」
サクラも気になったのか、持ち上げてしげしげと観察する。
「ああ、それはオリハルコンだ。何でも聖剣の素材になり、魔を断つ聖なる力を持っているとか」
「魔を断つ聖なる力ねー、ん?」
「ああああああああああああ!」
石に触れているサクラが断末魔を上げた、その体が光に包まれている。どう考えて危ない状態である。
「ちょ、やべえやべえ!」
三人で何とかサクラからオリハルコンを取り上げると、光が止まり、息絶え絶えになったサクラがその場に倒れ込んだ。
「危なかった」
危うく仲間が昇天するところだった。
「なんかわかんないけど、触ったら危ないものとかあるかもだから気を付けて、ドラゴンを呼ぶ笛とかあるから」
「いやほんとにすみません」
そんな危険なものを何故剥き出しに置いているのか、と疑問に思ったが素直に謝っておく。
「あと散らかしたものはちゃんと片付けておいてね」
全員で平謝りし、さっきの一悶着で魔道具が床に散らばってしまったものを全員で拾い集める。文字通り散乱してしまった大量の魔道具、さすが品揃えの良さを自慢するだけのことはある、片付けには少々骨が折れそうだ。
その中の一つさっきのオリハルコンに似た石に手を伸ばす、同時に手を伸ばしたアテナの手に触れた。
「ああ、ごめん」
「いやこっちこそ悪かったわね」
多分恋愛小説とかならここで愛の片鱗が生まれるのだろうが、この二人に限ってそんなことはない。
何事もなかったように、二人とも石を元の場所に戻そうとしたその時――さっきのサクラのように二人の体が光に包まれる。
「え、なにちょっとこれ」
二人とも慌てて石から手を放すが、さっきとは違い体に纏わりつく光は止まらない。
「どうした!」
反射的にグラーシーザーとサクラが二人に手を伸ばす――しかし二人の手に向かって伸ばした掌は虚しく空を切った。
「リョウさん、アテナさん……」
グラーシーザーの言葉に答える二人はもうこの場にいなかった。
「ふがっ」
さっきまで魔道具の店にいたはずなのに、なんか冷たい床の上に叩きつけられた。
「いてて、いったい何が――へぶっ!」
さらに追い打ちかけるように振ってきた何かにリョウは押しつぶされた。最初で全身を打った時の痛みとは比べ物にならない衝撃が走る。
「あ、ごめんなさい」
踏みつぶされたので上は見えないが、声で誰が振ってきたのかは分かった。最も誰が降ってきたかは問題ではないが。
「は、早くどいて……」
息絶え絶えになりながら懇願すると体にかかっていた重量がなくなり、自由になった。
「大丈夫?」
「いてて、ここはどこだ?」
さっきまで踏みつぶされていたため、ここがどこかわからなかったが、ようやく周りの様子を確認できる。
見たことのない場所だった、冷たい意志の床に、廊下の柱には蝋燭が揺れている。
そして極めつけは窓の外、さっきまで昼間のはずなのに薄暗い、分厚い黒雲が空を覆っており、一筋の光も届いていない。
荘厳であるがどこか不気味さを感じる内装に外は光届かぬ暗黒、これではまるで。
「なあアテナ、ここってまさか」
恐る恐る訪ねてきたリョウに、アテナは最悪の答えを叩きつける。
「ここは魔王城、早い話が私たちの宿敵の本拠地よ」
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