第3話 真紅の魔剣①
「剣が欲しい」
ギルドの休憩所もとい酒場での食事中、リョウは正面にいるアテナに同意を求める。
「ああ、そういやのスカルドラゴンとの戦いで折れてたな」
リョウの右隣に座っているサクラが思い出すように言う。ちなみにサクラは今、リョウたちと一緒の家で暮らしている。
「武器屋に行けばいいじゃじゃない、普通に売ってるわよ」
フォークに巻き付けたパスタを口に運びながらサクラも同意する。
「いや前みたいにすぐ折れたら嫌だから、少し高くても自分に合ってて、丈夫なのが欲しいんだよ」
「じゃあ、作った方がいいかもしれないわね」
「うーん、でも」
「何? 歯切れ悪いわね」
「武器屋さんに聞いたんだけど、オーダーメイドで作るとかなりの金額するらしい、時間もかかるし。冒険者の仕事もあるから、できるだけ早く用意したいんだけど」
今はもう完全に日雇いの仕事だけで食いつないでいる、再び自分が冒険者だということを見失いそうなのである。
「話が見えないわね、結局何が言いたいの?」
「どっかのダンジョンとかで俺に合ってて、しかも強い剣がただで手に入るようなRPGイベント、ありませんでしょーか」
「そんな都合のいいことあるわけないでしょ」
「ですよねー」
落胆の溜息を漏らすが現実は変わらない。
「この際呪われてもいいから強い剣落ちてないかなー」
大人しく市販のものを買うかと思い始めたとき。
「おうおう、姉ちゃんたち、お食事かい」
「俺らも会話に混ぜてくれよ」
「へへへ」
西部劇で最初にやられる荒くれ者みたいな口調でやってきたのは、背の高いやせ型、中肉中背、背の低い小太りという三人組の黄金比みたいな取り合わせの三人組、フラグ三人衆の方々だ、ファンタジーな世界なのに世紀末な格好をしていることや、フラグっぽい台詞しか喋れない呪いにかかっているが、とても親切な方たちである。
「ところで何の話をしていたんだい」
長身のやせ型のフラグ建築士――エリックの質問にリョウが今の状況を説明。
「かくかくしかじか、まるまるうまうま」
「なるほど、それは大変だ」
「何かいい話ないですか?」
リョウの質問に、フラグ三人衆は意味ありげに笑う。申し訳ないがその笑みはものすごく雑魚キャラっぽい。
「そんな君たちに耳寄りな情報があるのだよ」
「あるんですか⁉」
待ってましたとばかりにフラグ三人衆は満面の笑みを浮かべる。
「西の洞窟の方向に、すごい強力な武器が封印されているらしい」
「なんでもかつて英雄が使っていた魔剣とかなんとか」
「ああ、だけど洞窟は危険なモンスターがいっぱいだからな、絶対に近づいてはだめだぞ、いいか絶対だからな」
さすがフラグ三人衆である、自分たちの死亡フラグだけではなく、ほかのパーティのフラグも立てるとは。
一通りフラグを立て終わるととフラグ三人衆は自分たちの席に戻っていった。リョウたちは顔を見合わせた。
――明日の行き先はもう決まった。
「いやあ、ここまで色々ありましたね」
そんなこんなでダンジョンを突き進み最深部に到着した。
リョウは額の汗を拭いながら、きっとゴールである仰々しい扉を見据えた。
「目的を達成できるって、清々しいな」
「いやリョウは何もやってないじゃん、出てきたスケルトン全部倒したのあたしじゃん」
「さーて、先に進むぞ」
「聞けよ」
「そうね、毎回あなたがやらかして、フォローするこっちの身にもなってほしいわ」
「いやお前はノリノリだっただろ、イ○ディ・ジョーンズみたいな格好してるくせに」
サクラの抗議をスルーし、探検服を身に纏いでかい探検リュックを背負ったアテナに突っ込みを入れつつ扉を力いっぱい押す、二人も呆れ顔で扉を押し始めた。
石でできた巨大な扉が重低音を響かせて、ゆっくりと開く。
中は祭壇が中心に鎮座しており、祭壇に備え付けられた台座に剣が突き刺さっている。
それは赤く幅広い刀身の剣だった。見た瞬間、それが自分たちが探していたものだと確信する。
剣から発される闘気で体が痺れるような感覚を覚える。手を伸ばすが躊躇われるほどに。
「すごいわね、この剣」
大抵のことでは眉の一つも動かさないアテナが、珍しく驚嘆の声を上げる。
「すごいって、何が?」
「あなたのステータスの二千倍以上の強さがあるわ、この世界の中でもかなり強い方ね」
「まじかよ、なんでこんな場所に。ポケモンで言うマサラタウン付近だぞ、この辺」
「細けーことはいいだろ、ほらリョウ、さっさと引き抜きな」
サクラに背中を押され、台座の前に立つ。
これから自分は強大な力を手にする、緊張で心臓が早鐘のように鼓動を刻む。
一息吐いて、覚悟を決める。両手でグラーシーザーの柄を握って、台座から引き抜く。
突如としてグラーシーザーの刀身が輝く、目を開けていられないほどの眩い光がリョウの全身を呑み込む。
「うおっ、まぶしっ」
そして収束した光の中から現れたのは――。
「初めまして、貴方が次のマスターですね」
光を背にして現れた聖女、純白の髪を持ち、ドレスのような服を着た優美で上品な出で立ちである。
気品溢れるその姿に、気後れしてしまう。
「私は魔剣グラーシーザー、これより私はあなたさまの剣」
リョウはもともと剣だった聖女に柔和な微笑みに向けられ、戸惑う。
「え、ああよろしく」
なんにせよこれで自分は世界で五本指に入るくらい強い魔剣を手に入れたわけだ、これならこの世界に存在しているはずの魔王にも余裕で勝てるのではないだろうか。
そんな期待に胸を膨らませているリョウだったがしかし。
――グラーシーザーのステータスが更新された。
「はい?」
訳の分からない言葉がリョウの脳内に直接響いた。
「ねえリョウ、その剣。ステータスがガクッと落ちたわ」
「え、どういうことだ」
『あ、私のステータスは持ち主のレベルに比例するんです』
「えーと、つまり」
「あんたが前に折った剣よりも一回り強いくらいに弱体化したわ」
「マジか!」
「どれどれ、あたしに貸してみ」
サクラがグラーシーザーを掴む、さっきと同じようにステータスが更新される。
「リョウが持ってた時の二百倍くらいになったわね」
「で、でも、こっ、これ……超重い」
サクラはグラーシーザーを持ち上げることができない、切っ先が地面についたまま少しも動く気配がしない。
『一応抜いた人にしか扱えないんです、魔剣ですので』
グラーシーザーが人の姿に戻る。悲しくなるぐらいのステータスになってしまったグラーシーザー、間接的に自分がどれだけ弱いのか自覚させられる。
「武器屋で売っているのと変わらないぐらいだなこれ」
「確かにステータスだけなら、時間がかかっても武器屋に頼んで作ってもらった方が、強い武器が手に入るわよ」
「まじか」
「でも、これから新しい武器を買わなくていいようになるわ、だってあなたの成長に合わせて、グラーシーザーも強くなるのだから」
『それに自分で言うのもなんですが、私「防御スキルを無視する」っていう結構レアなスキル持ってますよ』
「バリアとか魔法でかけた防御バフを完全に無効にする能力か、普通に強いわね」
『私、魔剣ですから、滅多に折れることはありませんし、もし折れたとしても少し時間がたてば元通りに戻ります』
「えーと、つまりまとめると、ステータスは持ち手に依存する、誰でも装備できるわけじゃない、レアスキルの防御スキルの完全無視を持っているってところか」
最初の超強いステータスじゃなくなったのは残念だが、前使っていた剣よりも強いし、簡単には折れないみたいだし、何より重さと手になじむ感じがちょうどいい。
「ま、色々あったけど、とにかくよろしくな、グラーシーザー」
『はい!』
「さーて目的も達成したし、帰るか」
皆で帰路に着こうとしたとき、聞き覚えの成る重低音、扉が開く音である、そしてぞろぞろと入ってきたのは前に死ぬほど見かけた、骨の兵士たち――スケルトンである。
戦闘は必至か。
「早速頼むぜ、グラーシーザー」
『はい、駆けましょう、あなたと共に』
「アテナ、サクラ、ここは俺一人で十分だ」
「へえ、毎回マタンゴにフルボッコにされてるやつの台詞とは思えないわね」
「ああ、ここに来るまでのスケルトンを全部、あたしに押し付けた奴の台詞とは思えねーな」
「あーあー聞こえないー」
そんなやり取りをやっているうちに、スケルトン五人組がこっちに近づいていた。
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