本編2

第259話 わがままお姫様(1)


「いやですいやです! 私もソルト様にオトモするんです!」


 ナナさんを連れて一度農場に戻ってきた俺たち。まぁそのパーティーメンバーを決めようと思ったわけだが……


——なぜあなたがここにいるんだ!


 俺の体に抱きついて駄々をこねているのは大きな胸と可愛い目が特徴的な極東の王位継承権を持つ……ワカちゃんことワカヒメ様だ。


「未踏の地ですから、そのほら危ないし……」

 俺がワカちゃんをなんとか引き剥がすと説得にかかる。ヒメに助けを求めても奴はニヤニヤ。夕食抜きにしてやる。

「私は足手まといでしょうか」

 うるうる、と効果音がなりそうなくらいワカちゃんが涙目になる。

「いや、そうじゃなくて……その、だな」

「絶対にお役に立ちますよ! 私が歌えば皆さんの士気や能力はあがりますし、それに……それに、ソルトさんに膝枕だってしてあげられますもん!」

 白目を剥く俺、クスクス笑っているのはシューとヒメだ。

 というか、他国のお姫様を未踏の地に連れて行くなんてもってのほかだし、本人も言っている通り、ワカちゃんの天職「奏」はワカちゃんにしか使えない唯一の能力である。

 極東にはアマテラスという圧倒的な力を持つ王女がいるものの、ワカちゃんも国宝レベルの人材だろう。

 それを俺のような冒険者が連れまわすのは国際問題にならないか……?

「ほら、ワカちゃんは極東にとっても大事だしお姫様を危険な冒険に連れまわすのは……」

 俺の返答にワカちゃんはぷくっと頬を膨らませて俺を睨む。

「ヒメちゃんやソラちゃんはよくてなんで私はだめなんですか!」

 反論できねぇ……。確かに、ヒメとソラも王位継承権を持っているが冒険どころかこの農場に住んでるし、死ぬほど危険な目にもあっている。

「どうしてヒメちゃんたちはよくて私はダメなの? ヒメちゃんたちだって極東にとっては特別です。大切です。それは皆様そうでしょう? でもどうして私は連れて行ってもらえないのですか!」

 俺の服を掴んで揺さぶるワカちゃん。以外に力が強い。

「ワカヒメ様」

 少し静かな声はソラだ。俺とワカちゃんのそばにひざまづいて頭を下げている。シノビっぽい。

「ソラちゃんもそう思うでしょう? 理不尽ですよねっ。わたし……つよいのに」

 ソラは顔を上げると

「ワカヒメ様、ソラとお手合わせ願えませんでしょうか」

 ソラの提案にその場にいた全員がぎょっとする。キッチンの奥にいたリアも「えっ!」と声をあげた。

「ソラちゃん?」

「ワカヒメ様。ソルト様のパーティーでは戦えることが絶対条件でございます。それはリーダーのソルト様が鑑定士という天職上、ソルト様をサポートするだけでなく圧倒的な戦力が必要だからにございます。ソルト様とオトモするためには戦闘力が必須にございます」

 なんかちょっと腑に落ちないがソラのいう通りだ。俺は前線に出て戦うというよりも采配を考えるのことの方が多い。俺ががっつりサポート系だからパーティーメンバーは基本的に戦闘ができて、さらに天職で特徴がある奴が多い。

「ソラ……」

 ソラが俺の方を見上げる。

「私は……ソルト様と一緒に冒険をすることが好きです。ですが、毎度、毎度、ポートに入る前にあなたとヒメ様に命を捧げる覚悟でおります」

 いやいやいやいや重い重い! むしろあなたたちを守るのが俺の仕事なんだけどな……。

「ワカヒメ様にはそれがないように思います」

 ソラはキッとワカちゃんに視線を向ける。ワカちゃんはわなわなと震える。まぁ、でもナイスソラ。

「表へ出てください。ソラちゃん! 私容赦しないから!」

 いや、やるんかーい!

「いやいや、ほら今回はやめとこうぜ。な?」

 俺はシキに目を向ける。中身はイザナミだ。どうにか止めてくれ……ないな。シキはなんだか嬉しそうな表情でパチパチと手を叩いている。ワカちゃんとソラの成長に喜んでいるの……か?


「ソルトさん」

 静かな声はナナさんだ。

「は、はい。すみません。すぐに決めるって……」

「いいんです。えっと……その」

 ナナさんは顔の傷を少しなぞりながら言った。

「ソルトさんの農園にはすごく優秀な医師がいるとか、ほら……こういう傷も綺麗にできるって」

 リアがナナさんの手を取って

「ゾーイが今日はこっちにいるみたいだから1日ナナさんを借りてもいいかな」

 ナナが少し顔を赤くした。

「ほら……その、私はこの傷を誇りだと思っている。でも、私は思ったんです。人間とソルトさんがロームに来てから多くの人間たちと交流して……私たちと同じなんだって。だから、人間への恨みの象徴のこの傷はもういらない。私はもっと前に進みたいって」

 ナナさんは控えめに微笑むとリアと目を合わせた。

「もちろんです」

 

「ソルト様! 表にお願いします!」

 ソラの声に俺は嫌な現実を思い出した。ワカちゃんとソラが手合わせをするらしい。シキもヒメも頼みの綱のハクもなんだかワクワクしているようだ。

「へいへい」

「ソルト〜、さすがにワカヒメはつれていけないにゃよ」

「わかってるよ、シュー」

「ソラがうまくできるといいけどにゃ……」


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