第258話 甘いものの誘惑(2)
ロームの城へたどり着いた俺、シュー、エリーは手厚い歓迎を受けていた。
——怪しい。
「おやおや、そんな顔をなさらないで英雄さま」
「グレースさん、えっと頼みごとってのは」
俺の質問にグレースは少しだけ気まずそうに瞬きをすると咳払いをして話し出した。
「ロームは多くのエルフ族を保護しているのは知っているわね」
「ええ、かつて人間が虐殺をし森を焼き追い払ってしまったから……ですね」
「ええ、その件については今ではほとんど覚えている人間も犯罪者本人もいませんから問題にはしないようにしていますが……その」
グレースは奥歯に何かが挟まっているような、言いにくいことがあるみたいだった。
「なんにゃ、さっさと言わにゃいと帰るにゃ」
シューは大変ご機嫌ななめである。
「私たちの管理下でありながら、管理下でないエルフたちがいます」
太古のエルフってやつか。
「自治区……というかその」
「我々のようなエルフを見下していて話にならないのです」
ナナがため息をつくように言って、グレースが「ナナ」とこれ以上言わないように視線で彼女を叱った。
「それをソルトに押し付けるのは違うにゃ」
シューの言う通りである。
「不可思議な問題が起きているのです」
「不可思議……?」
「多くの翼のエルフたちが行方不明になっているという。彼らは傲慢で高飛車で……その扱いづらい種族だが……我々エルフ族の始祖でありこの大陸でおそらく一番長寿な種族……失いたくないが私どもの力ではどうにもならないの」
グレースは少し俯くと大きくため息をついた。
「私たちを救ってくださった英雄様なら……きっと彼らも」
「わかりました」
「ソルト!」
シューが唸る。
「こっちだって色々やることが山積みにゃのに……このお人好しが!」
シュー、俺にはいい考えがあるんだ。
「その代わり、グレースさん。お願いがあります」
「もちろん、どんなお願いでも我々ローム帝国が務めましょう」
シューがジト目で俺を見てくる。
「俺があなた方に力を貸す代わりにローム帝国のエルフの力をお借りしたく思います」
ナナがピクリと眉を上げた。
「具体的には?」
グレースの声に緊張が宿る。
「そうですね……ドワーフエルフを30人ほど」
「ソルト……本気かにゃ」
「あぁ、本気だぜシュー」
「シューは俄然やる気がでてきたにゃ」
エリーは何が何だかわからない様子で俺とシューを交互に見ている。
「ほかほかあったかくって、じめじめ暗くって……ミルクが最高にゃ」
「そうそう、汗掻いた後のビールもな!」
「そ、ソルトさん?」
「くろねこ亭の地下に岩盤浴施設を作る!」
俺とシューの長年の計画である。
しかし、岩盤浴ってのは限りあるダンジョンの中(しかも火山系の)の地下でとれる鉱物が必要だ。
しかもその鉱物を綺麗に伸ばしたり切ったりする技術はエルフの中でもドワーフと呼ばれる種族しか持っていないとされ、ロームの地方でしか味わえない岩盤浴。
俺は本でしか読んだことがないが、シューは知っているらしく長年の彼女の要望でもあった。
温泉魔石もあるから温泉施設もと併設すればうちで働く奴らの最高の癒しになるだろう。
「わかりました。すぐに人員を集めましょう」
「交渉成立ですね」
「では、詳しい話はナナ。説明してさしあげて」
「はい。ソルト様、お話はどちらでいたしましょうか」
「じゃあ、一旦うちに来てください。ナナさんも同行してくださるんですよね」
「ええ、私が奴らとの交渉をしましょう」
”奴ら”か。
俺たちは一旦グレースに別れを告げてポートに戻った。
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更新が大変遅れてしまいすみません、まったり更新していきますのでゆるりとお読みいただけると嬉しいです。
※ところどころ設定や名称など間違えているかもなので何かあればコメントでご指摘いただけると嬉しいです
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では、続きもお楽しみくださいませ!
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