カクヨム限定話 フィオーネとお勉強(2)
「クシナダ〜?」
クシナダは部屋で本を読んでいた。ソルトさんが不在だけど、シューちゃんが家の前のマッドでゴロゴロしていて可愛かったなぁ。クシナダを探しにギルドまで行ったけど結局すれ違いになって大変だった。
クシナダの部屋は研究部っぽい変なものがいっぱいある。
あれ? 何をお願いしにきたんだっけ?
「どうしたの?」
クシナダは真っ赤な瞳を私に向けて少し面倒くさそうに言った。最近は私をママって呼んでくれない。はんこーき? ってやつらしい。
「クシナダ、私勉強を教えてもらいたくて」
私のお願いを聞くとクシナダは「はぁ〜」とため息をついた。
「ヴァネッサさんが言ってたの本当だったんだ。いいよ〜、私にわかるところなら教えたげる」
***
クシナダは教えるのがうまい。あまり頭の良くない私にもわかるように教えてくれる。特に数字の計算は大嫌いだけど、クシナダの言うようにモンスターに例えるとわかりやすい。
「そ。できたでしょ? 次は一人でやってみて」
「ねぇ、クシナダ。ソルトさんって誰が好きだと思う?」
「ちょっと、勉強しないと」
「おやすみ、おやすみ! ねぇ、どう思う?」
クシナダは私の質問に少しだけ沈黙すると「サンちゃんとか?」と答えた。サンちゃん……もといサングリエはソルトさんの幼馴染だ。綺麗だしそれに女神みたいに優しい。
私とは違って頭も良くて、それにソルトさんのことをよく知っている。ソルトさんもまたサングリエのことをよく知っている。
「そっかぁ」
「フィオーネはソルトが好きなの?」
「そっ……そうじゃなくて」
「好きなのね」
クシナダは口を手で隠しながら笑い声をあげる。極東風の笑いかたらしい。
「クシナダは?」
「私? 私にとってソルトはパパみたいな存在だから好きとかはないかなぁ。多分一緒にお風呂も入れるよ」
ソルトさんとお風呂?!
絶対無理! はずかしくて死んじゃう!
「フィオーネ、落ち着いてよ。大丈夫、ソルトはそんな破廉恥なことしないから」
クシナダはケタケタと笑うと私のほっぺたをペシペシと叩いた。私は変な妄想をやめてクシナダの話を聞く。
「ソルトを狙うにはライバルが多すぎるねぇ。極東のワカちゃんもだし〜、サクラちゃんもソルトのお嫁さんになるって言ってたよ?」
「わかってる。ソルトさんは頭がいいから要領がよくて賢い人が好き。多分、戦士の私は嫌い……知ってるよ。私だけ扱いが雑だもん」
多分、リアちゃんもソルトさんが好きだ。ゾーイちゃんと話していたのを昔聞いたことがある。リアちゃんはソルトさんの一番弟子で同じ鑑定士だから話があうことも多いだろう。お馬鹿は私とは違って一緒にいて楽しいんだと思う。
ソルトさんはきっと私のことを便利な力持ちくらいにしか思ってない。
「でも、フィオーネには色魔女の血があるじゃん? 流石のソルトもイチコロだよ」
クシナダは私の胸をぽよんと突いた。
「で、でもぉ……それは本当に好きになってもらうのと違うから」
「そういうフィオーネのことソルトは褒めてたよ?」
クシナダはぎゅっと私に抱きつくとヨシヨシしてくれる。クシナダは研究部の変な匂いがしたがひんやりしていて気持ちよかった。
「フィオーネはバカでどうしようもないけど、アイツがいなかったら今の俺はいないってソルトは言ってた。絶対にズルしない信用できるやつだってね。だから、フィオーネにも絶対にチャンスはある! だって私の自慢のママだもん」
溢れてくる涙を私はぬぐいながら、クシナダの真っ赤な目を見つめた。クシナダはいたずらっぽく笑うと
「ここら辺は〜そーだなぁ〜ソルトの方が詳しいんじゃない?」
と私に言う。
思い立ったら即行動! 私はソルトさんがいるであろうくろねこ亭へ行くことにした。ソルトさんに会ったらデートの申し込みをするんだ。初めて出会ったギルドの入り口から始まって……そうだピクニックしよう!
色々とプランを考えながら私はくろねこ亭にたどり着いた。
「ソルトさん! あれ? 私何してたんでしたっけ?」
ソルトさんは目を細めて呆れた顔で私を見てる。
「お前、勉強教わるってクシナダ探してたろ? どうしたどうした」
「あっ、そうです! 勉強でした!」
そうだ、勉強しないといけなかったんだった。
「教えてくださいっ」
「あー、ちょっとこれ食って待ってて」
ソルトさんはめんどくさそうに後頭部を掻いたあと、山盛りのまかない飯を私によこして2階に行くように言ってくれた。
「ソルトさん! 大好きです!」
「あーはいはい、ちょっと待ってろよ〜」
私は私らしく真っ向からぶつかって、勝っても負けても納得できる。そんな戦士……じゃなくて女性になりたいと思った。
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