第256話 復活! 冒険者ソルト(2)
【元気な土モグラ十匹を捕まえてほしい】
【
【米の栽培方法を教えて欲しい】
【A級ダンジョンに帯同してほしい】
【パーティーの鑑定士を育ててほしい】
「これ全部俺っすか?」
フーリンさんがせっせと依頼書を貼っていたので声をかけると彼女は「あー大変、大変」と口をこぼした。
シャーリャも受付カウンターの中でてんてこまいしていたし、とてもじゃないけど話しかけられるような雰囲気じゃない。
こんなにギルドって繁盛してたっけ?
「あら、ソルトさん。これぜーんぶソルトさんへの指名依頼なのよ。ほら、優秀で数々の事件を解決した鑑定士が冒険者に戻って来たって話題になっていてね。問い合わせが絶えないの」
ちょっと……まてよ。
フーリンさんの声がギルドの受付ホールに響いたせいで、シンと一瞬だけ静かになる。これは——まずい。
俺はそっとフードをかぶるとギルドを出るために扉の方へと向かう。
——でも遅かった。
「ソルトさんだ! こっちの依頼お願いできますか!」
「うちのパーティーにお願いします!」
「ちょっと! ソルトさん、うちは女の子だけですよぉ」
俺の周りに集まってくる冒険者たち。服は引っ張られるわ、道は塞がれるわで俺は群衆に飲み込まれてしまう。
「他の鑑定士でもできるもんはそっちに頼んでくれ! 俺は1人しかいないんだ!」
やっとのことで全員の依頼を一気に断ると、俺はギルド受付ホールから逃げ出すように出てシューを抱き上げると流通部の方へと向かった。
***
「あぁ〜、やっぱり復帰なんてするんじゃなかった」
「本当だにゃ。こっちまで大騒ぎにゃ」
シューはブルブルと体を震わせると冒険者たちに触られて不機嫌なのか毛をもっふもふに逆立てる。俺も体中の埃を払って、それから席に着いた。
ミーナは謎の微笑みを浮かべながら緑茶を飲んでいる。流通部は一山超えたからか落ち着いているようだった。
「そりゃそうよ。ギルド流通部の顧問で外国の王族とも仲が良くて、国王の暗殺事件を解決したような人が冒険者に戻ったなんて……誰だって一緒にダンジョンに潜りたいと思うに決まってるでしょう?」
「ミーナさん、それわかってたならなんで教えてくんないんすか。俺、ダンジョンフリーパスでよかったです」
ミーナは「あら? みなかったの?」 とあっけらかんとした表情で俺に言ったが俺はなんのことだかわからない。
「依頼書の依頼金額……普通のS級鑑定士の倍以上に設定していたはずだけど、簡単なものは稼げるんじゃない?」
依頼書の金額……全くみてなかった。
普段の倍払ってでも俺にお願いしたいなんて思ってもらえるようになったのは素直に嬉しい。昔は俺が設定していた金額もバカにされていたっけ。
「おい、バカ息子。お前に鑑定士部から命令だ!」
バァンと執務室の扉を開けて大声で俺に話しかけて来たのはくそ親父だ。
「冒険者になったってことは俺は鑑定士部……つまりはクソ親父が俺の上司ってことかよ」
「へぇん。やっと理解したがバカ息子。これからは鑑定士部所属の鑑定士としてもガンガン働いてもらうからな! 覚悟しておけよぉ」
それは完全に抜けていた。
タケルに煽られて、そんで熱くなっていたが……冒険者になると依頼を受けられるだけじゃなくて、各天職の部の所属になるんだった。
俺の場合、鑑定士だから鑑定士部の所属になる。そんで、鑑定士部の部長は俺の親父。俺が親父を推薦したんだった!
「クッソ、やりずれぇ……」
「まぁ、聴きやがれ。朗報だ」
親父はドカンと来客者用のソファーに座ると「ガハハ」と笑った。
「お前に依頼が殺到してるのは俺も知ってる。んで、お前じゃなくてもできる仕事ばっかってのもな。そういう依頼に関しては鑑定士部が適任を提案して解決することにフーリンさんと決めたよ」
あぁ、それはありがたい。
「んで、お前にはお前のレベルにあった依頼を優先的に受けてもらうことになる。例えば……これだ」
親父は胸元から真っ赤な封筒を取り出した。
真っ赤な封筒はこのギルドの中でやり取りされる文書の中でも「トップシークレット」を意味する色だ。
「お願いできる鑑定士がいなくてな。ソルト」
親父が俺の名前を呼ぶときはロクなことがない。俺とシューは覚悟を決めて親父の話を聞くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます