第255話 復活! 冒険者ソルト(1)
冒険者カードを取り戻した俺は、かっこいいヒーローみたいな冒険者に——
「なれるわけがねぇ!!」
今日は圧倒的人手不足で農場を駆けずり回っている。収穫に収穫に収穫! 収穫した野菜は全部分別してそれぞれのカゴに入れて、大きな台車に乗せる。
そんでもって買い手がついているところに送るやつやギルドの調理部に送るもの、商店街の問屋に下ろすもの……。
くろねこ亭に持ってるのは形が悪いものやちょっとかけてるやつなんかで、その中でも小さいのは俺たちのまかないになる。
「次はフルーツか、腰が死ぬ……」
歳を感じながら俺は果樹園へと向かう。ベリー類とリンゴ、最近ベヒーモスのダンジョンで仕入れた
砂糖でもかけたみたいな甘さのメロンは女子たちをとりこにした。俺にはすこし甘すぎるから凍らせて削って食べるのが好きだ。
「おし、やるか」
蔓になっているたくさんのメロンを収穫しながら俺は何度か首から下げている冒険者カードを見つめる。
結局、冒険者カードとダンジョンッフリーパスって大して変わらないんだよな。ただ、ギルドの冒険者として登録されて依頼を受けられるかどうかってだけでさ。
依頼なんてやってる時間はないし……。
「はぁ……まじで忙しい」
午前中が勝負のうちの農場だが、いつも手伝ってくれている引退した戦士たちが戦士部の集まりで不在なのだ。彼らは力仕事だけは得意で、何よりもうちが結構な給料を出しているからかかなりよく働いてくれていた。
俺は戦士をバカだと思い込んでいたが、奴らは真っ直ぐすぎるだけで一度信用してもらえれば対価以上の貢献をしてくれる連中が多い。
「これで最後だな」
メロンを積み込んで、それから土モグラたちを農場と果樹園に放す。彼らが肥料や落ちた果実を食べて糞をすることで栄養たっぷりの土が補給される。
ってなわけで、くろねこ亭で昨日出た残飯や生ごみを農場にぶちまけないと。
「これが本職! 本職だぞ! 俺!」
***
農場主にとっての午後休みは貴重である。
俺は結構な量のランチを食べた後、シューと一緒に芝生でゴロゴロしていた。牧場の方はゾーイが管理してくれていてとても綺麗だし、動物たちはみんなお腹いっぱいで落ち着いていて時間もゆっくり流れているようだ。
「シュー、もふらせてくれ」
「いやだにゃ」
と言いながらシューは俺の腹の上に香箱座りをする。俺は優しくシューの背中を撫でながら目を閉じる。太陽の香りがしてほかほかと暖かい。
あぁ、もう少ししたら種まきをして……そんでくろねこ亭に手伝いに行かないと。
「ソルト〜」
「ヒメ様! そのままではいけませんよ!」
「ええんじゃ! ここはヒメの屋敷の敷地内じゃろ」
いやいや、ここは俺が買った土地ですが? 全く……。ってなんつーかっこで外歩いてんだ!
ヒメは風呂上がりの手ぬぐいを頭に巻いて、うっすい白い浴衣のまま俺たちの方へと走ってきていた。あまりのだらしなさにシューがため息をつく。あいつリラックスしすぎだろ……ヒミコに怒られんぞ。
「なんだよ」
「ソラ、ハク、ソルトに教えてやれ」
お前はしゃべらないのかよ! とまぁいつものヒメらしいけど……。俺はとりあえずヒメに上着を着せて、家へと戻ることにした。
ソラとハクは俺に「すみません」と頭を下げると、ハクがまだ眠っていたいシューを抱っこする。
家に入ってからシューは暖炉の前で眠りにつくと、俺は極東女衆三人のために緑茶を淹れる。お茶請けはソラ特性の豆乳パウンドケーキ。
「で、なんの話だっけ?」
「今日、私がギルドへのランチ配達に行ったんです。ほら、受付課のみんなのためにクラブハウスサンドを。そしたらですね……」
ソラはなぜだか嬉しそうに笑うと帯の中にしまっていた紙を取り出すとベシッとテーブルの上に叩きつけた。
「ソルトさんに依頼が来ていましたよ! ギルドの掲示板いっぱいに!」
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