第251話 レオガルド・ロゼ(1)

 クシナダが丸呑みしたレオガルド・ロゼが消化される前に俺たちは研究部に戻る羽目になった。


「なぁ、あんなでっかいもの飲み込んだのに人型に戻ることできるんだな」


 クシナダはお腹くるしい〜とデザート食べ放題後の女子みたいなことを言いながら呑気にギルドの中を歩いていた。物理的にどうなってやがるんだ。全く。


「このバカ野郎。反省文200枚書かせてやる」


「ひぃぃぃ」


 タケルを締め上げているのはエスターだ。シューの魔力が切れたせいで、ダンジョンから脱出する際に防臭魔法が使えずエスターは大変不機嫌なのだ。


「俺は……ただ、ソルト以外にパーティーを組みたくなかったんだ。だから、俺だけでもやれる。俺は変わったんだってわかって欲しかったんだ」


 もう論理的にめちゃくちゃだ。

 俺を見返すなら鑑定士を雇ってちゃんと攻略するのが一番いいんじゃないか? いや、こいつに常識なんてもんは通用しないのか。


「大迷惑だぜ、全く」


「でもよ、俺は責任取りたかったんだ。お前みたいな才能ある奴が俺のせいで冒険者やめたなんてさ。そんなんダメだろ? だからさ、意地でも俺」


 タケルはぐっと拳を握ると悔しそうに目を伏せた。

 こっちは、こいつが俺のせいで死ぬかもって言われるのはもう2回目でなれたってのにさ。バカの相手は本当に疲れるぜ。


「冒険者の資格は、お前を助けられたら取り戻すことになってた」


 タケルは驚いたような顔で俺を見つめる。


「お前が生きてたら俺は冒険者に戻るってそう決めた」


「俺、生きてるよな」


「お前はバカか」


「なら、また冒険ができるのか?」


「しねぇ、でも今回みたいな事件に関係しそうな依頼があったらダンジョンに潜れるようにはなった」


 タケルが「なんだ、俺……頑張ってよかった!!」と大声を出したのでエスターがタケルの頭をグーでげんこつした。

 ぐべっとタケルが鳴くとエスターが「静かにしろ、ボケ」と唸る。


「いいか、約束してくれ。鑑定士を大事にしてくれ。俺も俺じゃなくても」


 タケルは元気よく頷いた。ヘラヘラしたバカっぽい笑顔で、お前と仲直りがしたいゆっくりでいいからと腑抜けたことを言ってまたエスターに殴られて。


「ソルト、なんで仲直りしたにゃ」


「あいつは使い勝手がいいだろ、そろそろ俺の駒にしてやろうと思ってな」


 エスターにぶん殴られながら戦士部へ戻っていくタケルを見送りながら俺たちは研究部の持つ大実験場へと向かうのだった。


***


 大蛇に変身したクシナダが丸呑みしたレオガルド・ロゼを吐き出す姿は見なければよかったと後悔するほどグロテスクだった。

 興奮しているヴァネッサ以外目をそらし今にも逃げ出したい気分だった。


「うーーーーん! なんという香り! なんという大きさ!」


 大興奮のヴァネッサ。

 俺たちはレオガルド・ロゼについて一通りヴァネッサに説明するとクシナダを連れて大実験場をあとにした。


「ソルト、お腹減った」


 クシナダはそう言ったが、俺もシューもヒメもソラも食欲なんてものはない。あまりにもグロテスクで臭すぎる。


「とりあえず、温泉でも入って体の匂いを落としたらな……」


 しゅんとするクシナダ。

 俺たちはその後2日間ナディアに唸られる羽目になった。

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