第243話 禁術(2)
「つまり、何者かを蘇らせようとしてるってことなのね」
幹部たちは俺の報告を聞いてざわざわとしていた。不安そうなミーナ、ララは険しい表情のままだった。
「つまり、犯人はかなり高い魔力をもった術師で……人間ではない強大な何かを蘇らせようとしている」
アロイがまとめるとよりわかりやすくなったが、いかんせん犯人像はつかめそうになかった。
「ソルト、心当たりは……」
「いや、ないっす。ただ、相棒のシューによれば貴族の一家5人の命と肉体を吸い込んでるってことはそれなりの大きさと魔力になるはずだそうです」
幹部たちは首をひねった。
ヴァネッサは笑いを噛み殺すような表情で俺を眺めている。あぁ、こいつはサイコだから仕方ない。多分研究が楽しくて仕方ないんだろう。
自分の脳みそ培養するくらいだからな。
「例えば……ですが、過去に生きていたモンスターなんかを地上で復活させる……とか、そんなことも可能になったとなるとかなりまずいかと。ただ、この魔法陣はあの古都ロームでも限られた者しか知らない古代黒魔術。犯人像は絞れるかもしれません」
アロイは小さく頷くと
「次の出方を待つしかない」
と言った。
その言葉にミーナがバンッと机を叩いて憤怒する。俺は怒るミーナを見て、それから彼女の気持ちを感じとり、ふつふつと怒りが込み上げる。
「サキュバスの犠牲が出ても構わないと言うんですか」
ミーナの低い声に室内がピリついた。ここにいる人間はほとんどが冒険者出身であり、一般人(貴族とはいえど)と下級魔物の犠牲など心の隅にも留めていないのだ。
もしも冒険者が犠牲になるような話だったら? こいつはこんな呑気に話し合いなどしていない。
あの魔法陣に必要なのは下級魔物の生贄だから、こいつらは無意識に差別しているのだ。
「ミーナ殿、落ち着いて。犯人像が見えないんだ。出方を伺うしかない」
「騎士道に反した結論だな。アロイ殿」
まさか、あのララがミーナの味方をするとは思わなかった。彼女の表情は険しくかなり強い眼差しをアロイに向けている。
ララは貴族の出身だし、何よりも騎士の血を持つ人間だ。差別はするが、弱い者を守ると言う宿命を忠実に遂行しているのかもしれない。
「なら、犯人を見つけその目的を阻止できるのか?」
「善処することはできます。まず、花街の閉鎖、および保安部の人間を花街に配備してください。俺がベニ……花街の長に頼んでサキュバスたちの管理をします。ヴァネッサさんたち研究部の方々にはあの魔法陣に関する調査を進めていただき、俺たち流通部は消えた貴族たちについて調べる」
ララが
「ふんっ……魔術師部の幹部殿はなんの案もない……と? 魔術師部に犯人がいる可能性が高いのに」
と魔術師部の幹部の女性を睨んだ。俺は正直、この魔術師部の幹部の女性を初めて見たが……なんというか気の強そうな女性だ。できるだけ、関わりたくない。
「我が部にこのような真似をする魔術師はいませんわ。頭の悪い戦士殿にはわからないでしょうね。おそらく、極東やロームの下郎でしょう」
ぎろり、おそろしいオーラで魔術師部の幹部をにらんだのはネルだった。
「聞き捨てならないな。エルフや極東人が下郎だと?」
「そうでしょう? 最近では流れの極東人やエルフたちの犯罪が増えているとか。ねぇ、アロイ様」
アロイはもごもごと何かを言っていたがララやネルの眼光に萎縮しているようだ。ただ、外国人による犯罪が増えているのは事実だそうだ。
にしてもこの女……
「アマンダ殿、幹部が差別的な発言をされるのはいかがかな」
ヴァネッサが仲介をするように微笑むと魔術師部の幹部アマンダは鼻で笑うように俺たちを見ると
「話はこれで終わりかしら? 暇じゃないの」
と部屋を出て行ってしまった。すると、アマンダの隣に座っていた真っ白な布を重ねて巻いたような不可思議な服を着た女も立ち上がると俺たちに一礼し部屋を出て行った。
彼女は回復術師部の幹部らしい。名前は……ジャミーラだったか。美しい女性だが、協力的ではない印象だ。どんな時も。
「まったく……これだから弱小部は……ソルト。さっきの話、戦士部も協力しよう。それから、アロイ殿。魔術師部のバカたれを説得して全ての魔術師の行動を受付嬢たちに提出させてくれますよね?」
ララの圧がすごい。
「流通部で調べます。戦士部は花街と上流階級の住宅地の護衛を」
ミーナがアロイに圧をかけるララを制するように言うとララは「わかった」と言って部屋を出た。
「俺も手伝います」
俺はシューを抱き上げるとミーナとともに会議室を後にした。
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