第242話 禁術(1)


「命……か」


 俺がギルドに入ってからの短い期間でもたくさんの人間が死んだ。それは、様々な原因で不本意な形で死んだものがほとんどだ。

 俺も、たくさんの仲間を失った。生き返らせたいと思う奴はたくさんいる。それを行動に移す奴ってことだよな。


「心当たりがあるようじゃの」


 婆さんは俺の心を見透かすように笑うとシューの背中を撫でて何度か頷いた。


「ありすぎます」


「人間とは儚い生き物じゃ。我らエルフに比べるとその人生は短すぎるのじゃ。だからこそ、想いは強く、そして傲慢じゃ。でも、だからこそその想いは強く愛すらも人を変えてしまうのじゃな」


 多分褒められてないが婆さんはドヤ顔だった。

 

「かわいい人間の子よ。そんなに思い詰めた顔をするでない」


 婆さんはシューを優しく机の上に逃がすと、立ち上がって部屋を出て行ってしまった。俺とシューは埃くさい部屋の中に取り残されて、顔を見合わせた。


「心当たりがありすぎるな」


「この魔法陣を知っている奴ってのがキモだにゃ。おそらく、例の二人組ではなさそうにゃ。鑑定士と薬師が何かできる範囲でもないにゃ」


 確かに、シューの言う通りだ。

 例の二人組は俺と同じような知識範囲だとして、こんな魔法陣を知っていることもないだろうし。


「だとして、じゃあ誰が?」


「それはわからないにゃ。でも、ミーナの言う方法を見つけるっていうソルトの役割は果たしたにゃ」


 まぁ、そりゃそうなんだけど。ここまでわかったら気になるじゃんか。


「失ったものを取り返したいと考える奴なんて大勢いるにゃ。シューたちには関係のない話にゃ。ソルト、もう首をつっこむのはやめるにゃ」


「シュー」


「なんだにゃ」


「俺は、やっと頼ってもらえるようになったんだ。タケルに追放されてみんなからバカにされた時とは違う。俺のやり方で、ゆっくりだったけどやっと……夢だった人物像に近づけてるんだ。だから、悪いけど今回も首をつっこむよ」


 シューは「はぁー」とため息をついたが「仕方ないにゃ」と言った。


「力を貸して欲しい」


「わかったにゃ。まず、あの魔法陣を描いたのは素人じゃないにゃ。すごく正確で強い魔力を感じたにゃ」


 シューはメモを肉球で踏んづけるとペシペシと叩いた。


「貴族の一家全員を跡形もなく吸い込むにゃんて……相当の力にゃ」


「つまり、何が言いたいんだよ」


 シューは、ギラリと黄金の瞳を光らせた。


「とんでもない強い存在を蘇らせようとしてるってことにゃ。多分。人間じゃないにゃ」


 そうなると、対象が絞れてくるな。例えば、ゾーイの姉で大暴れしやがったマリアではないだろうし、保安部のレオナルドや俺の元パーティーメンバーでもない。

 エスメラルダ……はエルフだがあれを生き返らせたいと思う奴がエンドランドにいるかと思えば考えにくいし……。


「ミーナたちは正解だったかもしれないにゃ」


「どうして?」


「きっと、犯人はシューたちの知らない何かを蘇らせようとしてるんじゃないかにゃ? ギルドのみんなの方が過去に詳しいし効率的にゃ」


 確かに。

 俺たちの考えもつかないような何かを蘇らせようとしてるのかもしれない。

 

「戻るか」


「そうするにゃ」

 

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