第239話 古書店にて(2)
「魔法陣に……殺人か」
クシナダの話はこうだ。
とある上流階級の人間と連絡が取れなくなった。ギルドの人間が様子を見に行くと屋敷のエントランスには血で描かれた大きな魔法陣。
そして、生贄として殺されていたのは「サキュバス」だったそうだ。今はヴァネッサが呪術の種類を特定するためにこもりっきりになっているらしいが、いかんせん謎が多いそうだ。
消えた貴族、サキュバスの生贄。
まぁ、少なからず下級魔物の血を使うなんてのはロクな魔術じゃない。それに、サキュバスってのはどうも引っかかる。
「で、なんで俺なんだよ」
「幹部の皆さんがね、今回もソルトに協力をしてほしいって話になったみたいなの。それでミーナさんに聞いたらロームに行ったって聞いて……でいなかったからここかなって」
「クシナダ、悪かったな。ありがとう。でもなんで俺よ」
いつも通り、まーーったく俺には関係ないじゃねぇか。そもそも被害者は貴族だろ? 保安部の奴らは何してやがる。
「それがね……、聴取に協力してくれてるベニさんがソルトじゃなきゃってゴネてて……」
——あの……野郎
「わかった。で、俺はどうすればいい?」
クシナダが笑顔になる。
「一旦は流通部でミーナさんが待ってる。その後は花街の方に向かってもらうと思うよ。リアちゃんが先に行ってるって」
はぁ〜。
またこれか。まぁ、俺の人生なんてこんな感じで終わっていくんだろうなぁ。だから、巻き込まないためにも結婚はしたくねぇんだ。
***
疲れた顔のミーナにハーブティーを出すエリー。この人たちは俺のせいでいつも面倒事に巻き込まれる。多分、ミーナはあの時俺をギルドに誘ったことをすごく後悔しているはずだ。
「おつかれっす」
「あぁ、やっときてくれた。ごめんね、おやすみあげるって言ったんだけど……」
「わかってます。クシナダから話は聞いてますし。いつものことですし」
俺の言葉にミーナは安堵のため息をついた。
「今回はとても……やっかいよ」
「例の二人組ですか?」
「いえ、まだ断定はできない。それに、いつも彼らは裏で方法を調達するだけ。実行者やその動機は彼らとは繋がらない場所にあるでしょう? だからね、今回も貴方を頼りたいの」
ミーナはハーブティーを一口だけ飲んだ。
「私たちギルドが犯人を探す。貴方はどんな方法を使ったか探す。そうすれば早く解決できるんじゃないかって」
「分担っすか」
「そう、分担」
俺はミーナの言っている事、つまりは幹部の奴らが固めた方針がアホすぎると思った。分担なんてできるはずがない。全ての行動には意味があるし、大概のものが論理的で、全てに理由があるのだ。
まぁでも……今までは取り返しがつかない状態になってから犯人が見つかって、その方法が見つかるっていう最悪のパターンが多かった。
毒水事件、マリアの洗脳事件、ツクヨミたちの国王殺害……エスメラルダの復讐劇も全てが起こってしまった後に犯人にたどり着いた。
これ以上の被害を防がなければ、それがギルドの信用にも関わってくるって事だろうな。
ただ、提案がバカすぎる……。
「じゃあ、俺は花街に行って話聞いてくるわ」
「ありがとう、ソルト」
「ミーナさん、少し休んでください。事件の方は俺に任せて。あんたは流通部の要なんだから……」
多分、ミーナはベニたちと仲がいい。だから気を落としているってのもあるんだろう。
結局、花街のサキュバスたちは地位が低い。下級の人間たちにも蔑まれてしまう。彼女たちはそれをわかっていてそれでも健気に生きている。
だからこそ、俺たちは彼女たちを守らなければならないのだ。
「シュー、いくぞ」
「にゃにゃっ」
ミーナの膝の上にいたシューはぴょいと俺の腕の中に飛び込んできた。あったかい。いい匂いがする。
「休暇は終わりにゃ。シューはすごく嫌な予感がするにゃ」
「俺もだよ」
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