第237話 幼馴染とのデートがうまくいくはずがない(2)


「いや、そのえっと……」


 俺がまごまごしているとちょうどいいタイミングで翡翠が大きなバスケットを持って水たまりから飛び出してきた。

 

「もってきたよーん」


 俺はグレースとサングリエを置いて翡翠からバスケットを受け取って中身を確認する。中には大きなチーズとパン、そしてぶどう酒が入っていた。プリテラに目配せをして火を起こしてもらう。

 熱々のチーズをパンにかけるだけのシンプルな料理だが、とても盛り上がるし……ぶどう酒はサングリエが作った甘めのもの。

 リアのチョイスは素晴らしい。さすが俺の一番弟子。


「私はソルトのお嫁さんになるんだもん」


 ボソッとサングリエがつぶやいたことでグレースの表情がどんどんと曇っていく。


「いいや、ソルトはロームの国王殿下になるのよ」


 いや! なりませんけど!!!!


「えっ、ソルト。ひどい」


 グレースがしくしくと泣きだした。そうだ、心が読めるんだった。まずった。


「いや、ほら俺はのんびり過ごしたいからさ? 国王とかそういうのはちょっと」


「じゃあ、私と結婚してくれるのよね?」


「へっ?」


 サングリエがぐっと俺に詰め寄って来る。

 いや、それもまた考えもんだぞ?


「ほら、俺、結婚とか恋愛とかそういうのまだ考えてないし……それにほら俺は鑑定士だからそういうの慎重に選ばないと……だろ?」


 自虐してみる。サングリエはそれでもいいと即答する。


 あーめんどくさい……。


「まぁ、俺はまだ結婚とかそういうの考えてないし!」


 ふくれる二人。プリテラは爆笑していた。


***


 チーズたっぷりのランチをたらふく食べて俺たちはごろんと寝転がっていた。多少の邪魔は入ったものの、なんだかんだ楽しい時間だった。

 グレースたちは公務があるとかで帰ってしまい、また俺とサングリエだけ。静かに風の音だけがしていた。


「まだ鑑定士ってこと気にしているの?」


「違うよ、いつか子供ができた時にさ、その子は気にするんじゃねぇかって思うだけ」


 サングリエは「らしいな」と笑った。

 俺は今までの人生の中で鑑定士に生まれなきゃよかったと思うことの方が多かった。今じゃ、幸せなことにそんな風には思わないし、鑑定士の地位も上がった。俺自身に仲間も増えたし……。

 でも、俺に子供ができて、この子が鑑定士だったら?

 戦士や魔術師になりたかったと後悔させるかもしれない。俺の血のせいで嫌な思いをさせるかもしれない。


「ソルトのお父さんはそんな風に言った?」


「いいや」


「天職はその子の人生よ。親が決めるものじゃないし、それに……ソルトの子供がそんな簡単な壁に負けるわけないと私は思うわ」


 スーパーポジティブ!

 サングリエのそういうところが好きだ。


「まぁ、そうかもなぁ……でも今の所考えてないよ。落ち着いたらって感じだな」


 シュンとしながらもサングリエはにっこり笑う。


「そろそろ戻ろっか。きっと面倒事が出来てるわよ。あっ……流れ星?」


 こんな夕方に?

 サングリエの視線の先には確かに綺麗な流れ星。

 よく見ればその周りには虹が出てきていた。


「あれって今朝の?」


「綺麗ね……」


「どっかでみたことあるような……。なぁサングリエ一緒に古書店で夕食でもどうだ?」


 光……虹……歌。

 小さな頃、何か読んだ時に触れた気がする。


「ソルト、今日はありがとう」


「おぅ」


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