第235話 二日酔い(2)
「ソルト、さっきの見た?」
サングリエはすでに作業着に着替えた上でぶどうの収穫をしていた。元気に働く彼女はとても幸せそうだった。
「ん? さっきのって」
「空を飛んでた大きな光」
「あぁ……歌も聞こえたよな」
サングリエは「綺麗だったわよね」と微笑んだ。確かに、綺麗っちゃ綺麗だったが俺としては嫌な予感がしてならない。あんなでかい生き物ダンジョンの外でみたことなんてなかったぞ。
「なんだったんだろう? ダンジョンでも見たことないけど……」
「考えるのやめようぜ、まーた面倒事に巻き込まれるぞ」
俺の言葉にサングリエは「そうね」と返すとぶどうの入ったバスケットを俺によこす。
「で、どうしたの?」
「いや、その今日は農場のことは他に任せてちょっと出かけないか?」
と俺が誘ったところで、俺の背中に気配。あー、これは。これはまずいぞ。
「ってことで〜、ここは私たちに任せてサンちゃんはおめかししよっか」
ゾーイである。
ソルトもやるじゃない! とお節介な褒め言葉のあとゾーイは半ば強制的にサングリエを連行していった。いや、その格式張ったデートとかじゃなくて、幼馴染のゆったりした時間を過ごしたかっただけなんだけどなぁ……。
これだから女どもは……。
俺はブドウがたっぷり入ったバスケットをワイン工房まで運ぶ。
ワイン工房では子供達が元気にブドウを踏み潰していた。こいつらはくろねこ亭の2階に住んでいる孤児たちだ。極東出身の子たちはヒメたちの交流会感でシノビ修行を行なっている子達だ。
「おっ、ソルトさんだ」
「おぉ、元気だな」
「サングリエさんは?」
「今日はお休みだ」
子供達はしょんぼりする。サングリエは子供達にも人気らしい。そりゃそうか。
「はーい、今日はリアお姉さんと〜ムラサキお姉さんが一緒にワインを作るヨォ〜」
——ムラサキ?!
嫌な予感! と思うのは遅かった。
色気ムンムンのサキュバスクイーンが地味な作業着でもじもじしている。こいつは花街から出て何をしてるんだ……まったく。
「あの〜……」
「ベニお姉様の許可はもらったのよ。うふふ、ソルト」
「やめろやめろ、子供達に悪影響だろうが!」
「はいはい、わかってるわよ、ほらこれをみて」
ムラサキは首元をちらりとめくって見せた。そこには呪術印がぐるりと首輪のように描かれている。
「これは色気封じの魔術よ。花街を出る時、力をコントロールできない遊女には必須なの。さっ、ワイン作りを教えてちょうだい」
子供達は素直だ。リアとムラサキに駆け寄るとあれをしろこれをしろと彼女たちを引っ張る。
***
「えっと、なんか緊張するな」
ゾーイプロデュースのサングリエはとても可愛い。男勝りで服なんかに興味のないサングリエとは考えられないような雰囲気だ。
「へ、へんだよね」
「いや、へんじゃないけど?」
「で、どこ行くの?」
「古書店でゆっくり話そうかなって思ってたけど……そんだけ気合いいれたんならどっか行くか。ロームとかどうだ?」
サングリエは少しだけ目を輝かせる。
一方で俺は緊張して心拍数が上がって来た。いくら見慣れた幼馴染とはいえ、可愛すぎるだろ……。
彼女の髪によく映える水色のワンピース、ウエストがほっそりしたタイプだからかスレンダーな彼女によく似合っている。
「ローム? 連れてってくれるの?」
「そうだな、ランチボックス買って行くか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます