第222話 ユキとクララ(1)


 俺の目の前で俺が作った味噌汁を飲みながらふくれっ面をしているのはウツタだった。

 なんでも俺が氷を操る魔術師のクララと行動を共にしたのが気にくわないらしい。


「私は一応、雪魔女ですよ! いちばん! 氷の魔法に優れているんですよ!」


 プンプンと音が出そうなくらい怒っている。

 一瞬にして湯気を上げていた味噌汁は凍ってしまい、暖炉の火がふわりと消えた。


「もう! おかあさんやめてよ!」


 ユキが金切り声をあげる。ユキもユキでエスターに契約魔物にしてもらえなかったらしく機嫌が悪い。

 なんでもエスターは新しいミニドラゴンをリュウカからプレゼントされたらしい。今は討伐任務に従事する傍、この魔物の特訓をしているらしい。


「だってぇ! だってぇ」


「いや、次はその……ウツタにお願いするよ」


 俺の一言でウツタはにっこり笑顔になり、部屋の温度も元に戻る。うーん、厄介極まりない。


「そういえば、そのクララが契約魔物を探しているってんで、お前と話したいんだってさ」


「えぇ……そうなんですか」


 ウツタはキリリと冷たい視線を向けて、冷たい味噌汁をすすった。


「いやですよ、なんか嫌いです」


「そう言わずに」


「ソルトさんはその女性のことが好きなんですか?」


 別に好きじゃない。なんならクララという女は全く掴めないし、何を考えているかわからないので苦手だ。ただ、強い魔術師でシューとは違った力を持っているところには魅力を感じている。


「じゃあ、今日の午後流通部の俺の執務室に来てくれ」


***


 ミーナとクララが案外気が合うらしい。一緒にリュウカの薬膳茶を飲みながら世間話をしている。シューもシューでクララにひんやりする石をはめ込んだ首輪をもらって上機嫌で、彼女の膝の上で丸くなっている。なんて現金なやつ。


「リュウカでも活躍したのね。ふふふっ、ほんと……人ってわからないものね」


 クララの色っぽい視線を俺はわざと無視する。


「でも、弟子の教育はまだまだみたいね」


「え?」


「あら? 聞いてないの? リアちゃんが昇級試験であのララ・デュボワに激辛パイを食べさせたって話……」


——なんだそれ!


 そういえば、先日クランベルト家で奴らがギスギスしていたのはそういうことだったのか。何があったのかは知らないが、リアが間違えてそんなポカやらかすとは思えない。

 あのララのことだ、きっとリアに何か嫌味でも言ってやり返されたんだろう。


「まったく……」


「怒らないであげてね。ネルの話じゃ、ララさんが鑑定士にひどい仕打ちをしたとかでリアちゃんがやり返しただけらしいから」


 俺は黙って頷いた。

 あとでゆっくり話を聞かないと。

 

「お待たせしました……えっと、おかあさんは具合がわるくて……」



 執務室に入って来たのは可愛らしい雪魔女の少女、ユキだった。真っ赤に染めた頰に、期待に膨らんだその瞳にはクララが映っている。


「わ、私! あなたの契約魔物になりたいんです!」

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