第220話 フィオーネ嫁に行く?!(1)
「別に、お嬢さんが望むのなら俺は反対しませんよ」
うちに客が来ている。
クランベルト家の当主フィル・クランベルトさんである。フィオーネの父で男ながらサキュバスの血を継いでいるらしく大変色男だ。
「そうですか」
フィオーネに縁談の話が来ているので娘を返して欲しいと頼みに来たようだが、俺としては正直どうでもいい。
フィオーネはうちの大事な用心棒だが、今は農場に多くの戦士が出入りしているしシノビも多くいるのでフィオーネが抜けたところで何の問題もない。
「フィオーネが全く家に帰りたがらないので好きな男でもいるかと思ったのですが……そうじゃなかったようで安心しました」
「農場で働いたり、そうですね魔物の育成やギルドでの仕事でかなり活躍していますから……楽しいのかもしれませんね」
***
「えっ! 私はいやです〜!」
と、俺が思ったほど、事はうまくいかない。フィオーネは縁談を断るらしい。あぁ、娘に縁談を進めるお父さんの気持ちが俺は痛いほどわかる。
「いや、お嫁に行けよ」
「いやです!」
「じゃあいつお嫁に行くんだ?」
「えっ、この農場にお嫁に来たんです!」
あぁ、めちゃくちゃだ。
フィオーネはバカすぎて話にならない。隣に座っているサングリエが呆れた顔でフィオーネをなだめている。
「みんないつかお嫁に行ってもらわないといけないにゃ」
シューの言う通りだ。俺はワイン用のぶどう畑を窓から眺め、ため息をつく。うちには女が多すぎる。これから勃発するであろうお嫁さん問題に頭をかかえることになるのだろうか。
「ソルトは結婚とかしないの?」
サングリエは度々俺にこの結婚の質問をしてくる。そりゃ俺だっていつかはしたい。もう遅いくらいの年だし、子供だってほしい。
まぁ相手がいないのが問題だけどな。
「そうだなぁ、相手がいればって感じかな」
「じゃあ私と結婚しましょう! そうしたら私はここに住み続けられますし!」
俺は思わずフィオーネにゲンコツしそうになった。
「お前とは結婚しないぞ。そもそも、結婚ってのは好きな人とするもんだろ?」
「私はソルトさんが大好きですよ!」
バカまっすぐなフィオーネの相手をするのは疲れる。俺はサングリエに目配せをするが、サングリエは不満げに部屋を出て行ってしまった。
全く、どいつもこいつも……。
「ソルトさんだって私のこと好きですよね?!」
ぐいぐいと迫ってくるフィオーネを押しのけて、俺は
「とにかく、俺はフィオーネと結婚はしない。いいな、わかったな?」
口を膨らませて色魔女の色気を解放するフィオーネ。俺がぐらりと視界が崩れフィオーネのことで頭がいっぱいになる。
「だめにゃ!」
ばっこーん! っと後頭部をひっぱたかれるような衝撃で俺は正気に戻ったようだ。シューの魔法を食らってフィオーネは気絶していた。
俺は家から逃げるように流通部の執務室へと向かった。ミーナに何とかしてもらえないか相談でもして、フィオーネの頭が冷えるのも待とう。
サングリエがなぜか怒ってたのが気になるが、あいつのことだからすぐに機嫌を直すだろうし。
「シュー、面倒なことになりそうだったよなぁ」
「そうだにゃ」
「あら、今日は非番でしょう?」
エリーは最近ひときわ綺麗になっていた。リュウカの物品が流通し始めたこともあっておしゃれの幅が広がったそうだ。今日もリュウカ風のピアスを身につけている。
「あぁ、一悶着あってさ」
「ミーナさんとお茶するんですけど、ソルトさんの分もご用意しますね」
「すまない」
エリーは「いえいえ」と言ってから給湯室の方へと戻って行った。やっぱり結婚するならあぁいう気立てがよくて優しい子だよな。
「あら、どうかしたの?」
執務室に入るとリラックスしていたミーナが足を下ろして不思議そうに俺を見つめている。俺はミーナに全てを話すことにした。
シューはすぐにミーナの膝の上に乗っかって丸くなる。
「そう……フィオーネはまっすぐだから許してあげてね」
「いや、まぁそうなんですけど……俺としても複雑なんですよ。あいつがこの機会を逃して嫁に行けなくなったらと思うと。責任を取れるわけじゃないですし」
ミーナとエリーは俺の回答に困っているようだった。そりゃそうだよな。
「大事なのはフィオーネちゃんの気持ちじゃないですか?」
エリーは私はエルフだからわからないけれどと前置きをしてから
「今の状況を変えたくないとフィオーネちゃんが思うのならそれが一番幸せに近い道だと思うんです。未来のために我慢をするのを誰かに強いられるのは気持ちよくないと思います」
それもそうだよな。
「問題は、俺に結婚を迫ってくる……ってことっすね」
ミーナとエリーが頭を抱えた。
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