第219話 もふもふは正義(2)
「暑いにゃ」
「あら、私を連れてきてよかったでしょ?」
「なんでついてきてるんですか」
俺の後ろでドヤ顔をしているのは妖艶な美女。万年氷の杖を持った魔術師クララだ。俺とシューがギルドの採集窓口で手続きをしている時、この女に見つかったのだ。
「でも、砂漠に肉厚アロエを取りに行きたいなんて私と同じじゃない?」
「ええ、まぁ」
「でもどうして?」
俺は答えなかった。
極東の時期女王のために保湿剤を作ろうとしているなんて話しても仕方ないだろうしな。
「よし、ここら辺のをささっと採集するか。シュー、頼んだぞ」
「にゃにゃ」
「よーし、おっいいのが生えてるじゃないか」
「にゃにゃ」
「シュー?」
陰ってきたのかと思っていた。照りつけるダンジョンの中の太陽がジリジリとしなくなったのだと思った。
しかし、俺の後ろに立っていた……のは大きなハサミ爪を持った銀色に輝く大サソリ。
「ソルト!」
クララの叫び声で我に返った俺はギリギリのところでサソリの尾針を避ける。あれには人間を即死させる猛毒が……うわっ!
銀毒サソリは俺を攻撃する。あぁ! こいつの好物はこの肉厚アロエか!
「うっ!」
なんとか短剣で銀毒サソリのハサミを受け止めて俺は横にすっ飛んだ。
「シュー!」
「にゃにゃっ!」
シューが飛ばした火球は銀毒サソリの目玉を直撃し、奴は大きくのけぞった。
「にゃにゃにゃっ!」
シューがたたみかけるように炎をぶつける。俺は加勢するように奴の急所である胸のスキマに短剣を差し込んだ。
——ぶしゃぁぁ
「うえっ!」
奴の体液をギリギリで避けて俺は飛び退いた。
「どいて! 子猫ちゃん!」
クララが大きく宙に魔法陣を描くと銀毒サソリに氷の雨が降り注ぐ。バキバキと音を立てて凍って行くサソリ。シューと俺はクララの後ろに下がる。
「これが……トドメ!」
クララがひときわ大きな氷の刃を動けなくなっている銀毒サソリの胸に差し込んだ。だんだんとサソリの目が淀み、そして命の光が消えて行く。
「怪我……してない?」
「えっと、あぁ大丈夫だ。ありがとう」
「いいのよ、こいつのドロップアイテム。運ぶの手伝ってくださる?」
***
大量のドロップアイテムを運ばされた俺は汗だくでギルドへとたどり着いた。銀毒サソリの毒や殻は高く売れる。クララはほくほく顔でギルド受付へと向かった。俺が鑑定はしたものの、一応ギルドの鑑定士部を通してから報酬を受け取るらしい。
「ありがとうね、鑑定士さん」
「いや、こちらこそ……ありがとう」
クララは男たちを魅了するウインクをすると報酬引換券を持って食堂の方へと向かっていった。
俺は背中に背負った肉厚アロエを持ち直して農場の近くにあるミーナの跳躍研究所へと向かうことにした。
肉厚アロエを使った保湿剤くらいならサクラでもできるだろう。
「あら? なによそんなもの背負って」
やばい、面倒な奴に見つかったかも。
俺の方をニヤニヤとした表情で見ているのはゾーイだ。久々に休みをもらったらしく牧場で動物たちの世話をしているみたいだ。作業着姿も着こなしてしまうのがなんとも憎らしい。
「ほら、リュウカの件でアマテラスさんにとりあえず贈り物でもしようかと思ってな」
「アロエで?」
「あぁ、乾燥がひどいんだってよ。手の。一応、上級ダンジョンの肉厚アロエだから良い薬ができるはずだ」
ゾーイは少しだけ不満そうな顔をする。
「でもアマテラス様って極東の王族よね? 半端なのを渡しても喜ばないわ。私たちっぽさを出さないと贈り物の意味がないし……。そうだ、いいこと考えた!」
ゾーイの「いいこと考えた」は怖すぎる。
「あのね、女の子を喜ばせるには見た目から。容器は私に任せて。それから。サクラにお願いして調香してもらいましょ」
「調香?」
「そうそう、サクラって鑑定士と薬師の天職を持っているでしょ? その中でも彼女って嗅覚が異常に鋭いの。だからね、ミーナが調香を進めたのよ。ほら、リュウカとの流通が盛んになると睨んでたのね」
ミーナのやつ……ちゃっかりしてんな。
「いいかおりのする保湿剤か……いいかもな」
問題なのはアマテラスさんが何の香りを好きか……か。
「アマテラス様は猫ちゃんのおでこの匂いが好きらしいわ」
結局もふもふかよ!
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