第218話 もふもふは正義(1)
俺は妲己から奪ったエルフの骨で作られた双剣を研究部へ持っていくことにした。もしもこの骨がスピカのものであればロームに返す必要がある。
「失礼します」
研究部、ヴァネッサの執務室をノックして俺は入室する。笑顔のクシナダとエルフらしい人影。黒髪のエルフとは珍しい。
「おぉ、どうしたソルト」
そのエルフは馴れ馴れしく俺に話しかける。
まさか……
「ソルトさん! ヴァネッサさんの手術が成功しまして!」
クシナダは興奮げに語ると俺のまわりをくるくると回った。どうやら極東の元シノビでなくなった死体を提供してもらい彼女の脳を移植して、胸に真紅の魔石を埋め込んでいるらしい。
(恐ろしいな)
「いいだろう? 新しい体だ。私の生命を維持するためにあの大きな真紅の魔石を凝縮させ胸に埋め込んだ。悪いな、お前の成果物だったろうに」
「あぁ、いいよ」
俺は喜ぶクシナダを見てそう思った。正直、かなり希少な魔石だったに違いない。普通の真紅の魔石とは違っただろう。
詳しいことはわからないけども。
「黒髪のエルフ、しかもほとんど体に傷がないんだ。すばらしいだろう?」
「そんな死体ありえるのか?」
「あぁ、シノビはな」
極東ってそんなに治安が悪いのか……イザナギたちに敵対する組織が多いのかどうかは知らないがよく人が死ぬらしい。
「で、あれはなんだ」
俺は溶液に浸った気持ちの悪いものを指差した。
「脳だ」
「誰の」
「私の」
ヴァネッサはガハハと笑うと「万が一のことを考えて切り出したんだ」とわけのわからないことを言ってのけた。
もうこの人に関わるのはやめよう。怖すぎる。
「そうそう。これを調べて欲しいんだ」
俺はエルフの骨で作られた双剣を渡した。多分、戦っていたエスターを見るに刃の部分にエルフの骨が仕込まれているはずだ。
「スピカのものならロームに返そうと思ってな」
ヴァネッサが不満そうな顔をする。多分、禁忌と言われるエルフの骨を使って様々な実験をしたいんだろう。
ちょっと待てよ。嫌な予感がする。
「そうか、私の体の骨もエルフの骨だよなぁ? ふっふっふっ」
クシナダに目配せをした俺はそっと執務室をあとにした。ヴァネッサは怖すぎる。死ぬ前のヴァネッサよりも研究者気質が増しているような?
よし、エルフの骨の件はこれでよしとして、次は極東交流会館へ行かなくては。アマテラスの大活躍で今回のことは解決できたのでエンドランド代表として何かしらの礼をしなくてはならない。
「シュー、ヴァネッサにはあんまり近づかないようにしよう」
「そうだにゃ……そのうち自分の体で実験しだすにゃ」
脳みそ切り出してるけどな……すでに。
「にゃにゃ〜」
シューを抱き上げて俺はギルドを出た。
***
「ソルトさん!」
西洋極東交流会館に入ってすぐに俺に声をかけてきたのはワカちゃんだった。そして、彼女が手を繋いでいる小さな女の子。可愛い猫耳が付いている。
「ククリ、ほらソルトさんに挨拶は?」
ぺこり、そんな音が聞こえるくらい可愛い挨拶をした小さな子はシマシマの耳と尻尾をふわりと揺らした。
まっすぐに切られた前髪がとても可愛い。
「こんにちは、くくりです」
そう言うとククリは煙に包まれて小さな子猫の姿になった。柄が変わった。この子は自分の毛色を変えられるみたいだ。
「こんにちは、えっとソルトです」
ククリは人見知りなのかワカちゃんの後ろに隠れてしまった。シューはすでに座布団の上で丸まっている。
「どうしたんですか?」
「あぁ、アマテラスさんにリュウカの件でお礼をしたいと思いまして……ヒメたちに助言をもらおうと」
あの狐双子の姿が見えない。もしかして農場か? 入れ違いになったか。
「アマテラスお姉様ですか……対価を求めるようなお方ではありませんが……」
「違うんです。国として極東にはお礼をしないと。リュウカの方からは流通経路の確保等あったと思いますが……」
ワカちゃんは詳しいことはわからないようで愛想笑いをしている。
極東とはゾーイの姉、マリアの事件以降かなり親密に外交をしているはずなのでエンドランドがどう言う風に動けばお礼になるのか……。
「アマテラスお姉様のお好きなものといえば……お団子かしら? よく一緒にいただいた覚えがあるわ」
ワカちゃんは一生懸命考えてくれる。
少し、顔色が良くなったような? ワカちゃんが元気そうでなによりだ。
「ククリ知ってるよ」
ひょっこり、ワカちゃんの後ろから顔を出したククリは言った。
俺は「どうしたの?」と優しい顔で聞いてみる。俺を馬鹿にするようにシューが鼻を鳴らす。
「アマテラス様はおててがかゆいの」
「おてて?」
「うん、ガビガビ」
おぉ……子供って残酷だな。
「医師の不養生とはよく言いますが、アマテラス様は自身のために【浄化】を使わないのかもしれないですね。この時期、極東は乾燥するので……」
そうか。
なら、いい方法があるぞ。
「ありがとうワカちゃん、ククリ」
「お役に立てたのなら何よりです。また、お会いできますか?」
俺は頷いた。お会いできるというか、ワカちゃんは結構頻繁にここにきているみたいだし。
「シュー、ダンジョン行くぞ」
「にゃおん」
シューがめんどくさそうに俺の肩に乗った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます